さまざまな思いを胸に、プロの世界で生きる選手たち。その“リアル”にスポットを当てた連載が2024年もシーズン開幕とともにスタート。第1回目は、広島の投手陣最年長右腕の新シーズンにかける思いに迫った。優しい眼差しの奥には、闘志がみなぎっている。 取材・文=菅原梨恵 写真=佐藤真一、BBM 崩れたバランス
3月29日、2024年シーズンが幕を開けた。ただ、開幕戦の、あの独特の雰囲気を味わうことができるのは、一軍をつかみ取った限られたメンバーのみ。そこを目指しながら届かなかった者の多くは、ひと足早くスタートを切ったファームの試合で一軍昇格に向けたアピールに励んでいる。
それでも、新しい1年に向けての思いは皆、共通だ。野村祐輔も、強い思いを口にする。
「毎年、意気込んで臨んではいますけど、年齢を重ねていく中で、シーズンへの思いというのは年々、強くなってきています」 今季も二軍スタートにはなった。それでも、新シーズンへの期待感はひしひしと伝わってくる。
プロ13年目を迎えた。今年で35歳。チームの投手陣では最年長だ。そんなふうに感じさせないのは、見た目の爽やかさだけではない。
「何とか『まだまだできるぞ』というところを見ていただきたいですし、そういったところが伝わってくれればなとは思っています」。発言からもあふれ出るエネルギッシュさが、右腕を輝かせる。
11年秋のドラフト会議で1位指名を受け、広島に入団した。ルーキーイヤーの開幕から先発ローテーションの一角を担うと、9勝を挙げて防御率は1.98をマーク。新人王に輝いた。その後も先発ローテーションの柱の一人として、16年には16勝、勝率.842で最多勝と勝率第一位のタイトルを獲得。16~18年のリーグ3連覇にも貢献している。
ただ、実績十分の右腕も、20年10月に「右鎖骨下静脈血栓症除去術」を受けると、21年は10年目にしてプロ入り初となる未勝利に。以降も、なかなか思うようなシーズンを送れずにいる。
その要因については「一つじゃないんですけどね……」。そう言って少し黙り込んだ右腕だったが、その後、
「一番は……バランスですかね。体もそうですし、いろいろなところでかみ合わない部分が多くあって。ピッチングフォームにしてもそうだし、タイミングもそう。しっかりとつかめなかった」と振り返った。
当時から自身の投球の違和感には「気づいてはいました。でも、それがどうしてそうなったのかというのは、なかなか……」。分かっていながらも修正できずに投げ続ける日々は、苦しかったに違いない。
「自分が思い描いた、というか、自分で考えているような投球と、映像で見たときにギャップが生まれていた」。もしかしたら、初めはほんの些細(ささい)な、それこそ気づかないようなズレだったのかもしれない。それがどんどんと大きくなっていき、投球をコントロールすることが難しくなった。気づけば、右腕が感じたギャップは、思った以上に大きくなっていたのだ。
それでも、シーズンは進んでいく。目指すのは一軍マウンド。「いつ呼ばれてもいいように。そのための準備は、ずっとしていました」。気持ちを奮い立たせ、試行錯誤を続けた。
「呼ばれるためには、そのズレを少しずつなくしていかないといけない。なくしていくことが近道だと思っていたので、そこを追い掛けていた、という感じですかね」。
右腕が追い掛けていたのは、過去の栄光をつかんだときの自分か。それとも、新たな自分のスタイルを見いだそうとしているのか。
「元の形に戻そうということはないですけど、でももう、ずっと昔、小さいころから、根本的な投げ方は変わっていないんです。だから、自分の形というものはある」 野村が野球を始めたのは、岡山県倉敷市の連島南小学校1年生のとき。そのころから築き上げてきた自分の形、しっくりくる自分の“基本”を、今一度、見つめ直すこと。そうすれば、また納得のいく投球ができるということは分かっていた。
ただ、目指す方向性は見えていても・・・
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