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野球浪漫2025

阪神・岩貞祐太 せめぎ合いの先へ「悔しさを、ひがみではなく、練習に直結させたい。レベルの高いことをやっていく」

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人生、計画を立てたようには進まない。「今年こそは」とオフから綿密につくり上げたスケジュールが白紙になることもある。そこからもう一度、体をつくり直していく作業は、まさに体の具合と、精神とのせめぎ合いだ。そこを乗り越えた先に見える光をつかみにいくためにまい進する。
文=柏原誠(日刊スポーツ) 写真=宮原和也、佐藤真一

自主トレ中の軽いぎっくり腰で再調整をしながらキャンプを過ごした


ブルペンを楽しめる心


 沖縄のテレビをつけると、たびたび情報番組から「せめぎ合いが……」と聞こえてきた。列島を襲った大寒波の影響で、今年の2月は沖縄でも寒さが厳しく、プロ野球キャンプ地の聖地が震え上がっていた。時には南国らしい暖かさが顔を出すが、すぐに真冬の寒気が戻ってくる。オープン戦が始まる下旬になっても、冬と春のせめぎ合いが続いていた。球界関係者、メディアの誰もが「異例」と口をそろえる2月だった。

 2月24日。阪神の若手組がキャンプを張る、うるま市の具志川野球場。強く、冷たい風のせいで体感気温はすこぶる低いが、ブルペンの隙間からは柔らかい日差しが差し込んでいた。その日、岩貞祐太は1人、ブルペンに残っていた。翌日の25日には、若手と一緒に一足早くキャンプを打ち上げ、関西に戻ることが決まっていた。特別扱いはされなかった。岩崎優島本浩也らとは違い、背番号14に「昇格」の声は掛からなかった。

 これが沖縄最後のブルペンになる。40球を過ぎたころ、強めに腕を振った。「今の何キロ?」。後ろの計測器で球速を確認した捕手・藤田健斗が応じる。「134です」。33歳の岩貞は苦笑いした。「ウソだろ?」。数球投げたのち、声が漏れるほど力を入れた。「今のは?」「138です」。驚いたように苦笑した。「142は出てたでしょ……」。速球派でならしている男の、リアルな現状が数字に表れていた。

 調整の遅れは明らかだったが、表情にイラ立ちや焦燥感はなかった。ブルペン独占を楽しむかのように、藤田と息の合ったやり取りを続けた。すべての球にカウントを設定し、打者を想定。サインを出してもらい、本番を想定した投球を繰り返した。強く投げた直球のあとに、チェンジアップを投げ込む。コース、球速差を踏まえて「(打者は)振ったかな?」と藤田に聞いた。後輩捕手も遠慮はしない。「うーん……振らないですね」。申し訳なさそうな一言に、先輩はニコッと小さくうなずき、ひたいの汗を拭った。そうして、ちょうど100球を投げ込み、岩貞の沖縄キャンプは幕を閉じた。

「関西に帰ったら寒いので、なかなか多く投げることはできないと思う。最後に現役の捕手に来てもらって、いろいろ話をしながら投げたいなと思っていました。自分が今、こういう配球をしたいけど、投げているボール(の質)によって、捕手はこういう配球したいと感じて出すサインもあるでしょうしね」

 その2日前のオープン戦・楽天戦(金武)で1回3失点と打ち込まれていた。2月1日から具志川で動いていたが、オープン戦の初戦には呼ばれた。一軍首脳陣がベテラン左腕の調整具合をチェックする場だったはずだ。そこで内容のいい投球を見せていたら、沖縄に残留という可能性もあったのかもしれない。だが、結果は出なかった。岩貞は、すべての状況を理解した上で、少し短く終わったキャンプを総括した。

「本当に自分がやりたかったこと、やっていることのとおり、という感じです。プラスもなければマイナスもないというキャンプでした。球数も700~800を予定していて、ちょうど800弱くらい。1クール目にコケちゃった割には元気に投げられたので。中盤以降は、制球を意識しながら、ある程度、満足に質も量もいけたのかなという感じです。きっかけとかをカチッとつかむ年は1回で3~4段上がったりするけど、それはなかった。本当に10段分、しっかり上がったかなという感じです」

 自らを冷静に見つめていた。理由がある。1月にアクシデントに見舞われていた。自主トレ中に・・・

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