幾度もの逆境に直面しながらも、下を向くことなく、野球と向き合い前へ進んできた。35歳を迎える今シーズンも進化を求めて腕を振り続けている。 取材・文=菊田康彦 写真=川口洋邦 腐らずひたむきに
「前回の登板が本当にふがいなかったので、なんとかチームの勝利に貢献できるピッチングをしたいなと思って。フォアボールがゼロっていうのが、良かったかなと思います」 5月8日の
広島戦(マツダ広島)。月が変わって最初の登板を白星で飾り、早くも昨シーズンに並ぶ3勝目を挙げたヤクルトの高梨裕稔は、試合後のヒーローインタビューでそう言って笑みを浮かべた。
ピッチングだけではない。4回には二死一、二塁で打席が回ると、広島の先発、
森下暢仁の148キロのストレートをセンター前にはじき返し、貴重な追加点となるタイムリーヒット。昨季までの通算打率は.074と打撃は決して得意ではないが「(投手が)9人目の野手というのは今年で最後。打てるなら打ってくださいと言っている」という
池山隆寛監督の期待に、バットでも応えてみせた。
これで今季は開幕から6試合に先発して3勝1敗、防御率3.00。4月最後の登板となった30日の
阪神戦(神宮)では7回途中まで8失点で今季初黒星を喫したが、中7日空けて上がったこの日のマウンドで6回を1失点に抑え、キッチリと借りを返した。
高梨は2018年オフのトレードで
日本ハムからヤクルトに移籍して、今年で早8年目。22年にはチームでも4番目に多い19試合の先発で7勝を挙げてセ・リーグ連覇に貢献したものの、その後は思うような成績を残せず、ヤクルト移籍以来着けてきた背番号「14」を“剥奪”されて24年からは「40」を背負うことになった。
「自分の中ではより危機感を持ってやらなきゃいけないと思いましたし、もうひと頑張りしないと現役もできなくなってしまうっていうところも、すごく考えました」 昨年は4月4日の
中日戦(神宮)で6回1失点の好投を見せるも、翌日には登録抹消。5、6月には計7試合に先発したがその間は1勝3敗、防御率4.28で、6月18日に再び一軍登録を抹消されてしまう。その後はしばらく一軍からお呼びが掛かることがなくなっても、高梨の心が折れることはなかった。
「腐ったらおしまいというか、それだけは心に決めてやっていたので。そこで気持ちが折れてしまうと結果にもつながりにくいと思いますし、ファームにいるときも常に一軍で投げる自分というものを想像しながら、練習にもゲームにも取り組んでいました。今でもそこが一番大事なのかなと思いますし、見ている人はそういう姿を見てくれていると思います。だから腐った瞬間は一瞬もないですね」 どんな状況にあろうとも、常に野球に対してひたむきに取り組む──。その信条はこれまでの・・・
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