高校時代は「都立の星」として甲子園に出場し注目を集めた。しかし、その後はケガとの戦いが続き、プロ入り後にはトミー・ジョン手術を経験。プロ初登板は入団4年目の27歳だった。それでも今季は、6月までの登板数が、昨季までの通算試合数(13)を上回るなど、試合ごとに存在感の高さを見せている。 文=田尻耕太郎(スポーツライター) 写真=桜井ひとし、松田杏子、湯浅芳昭、BBM 29歳での初勝利
グラウンドで傘をさしていた。なんとも奇抜な光景だったが、伊藤優輔の心はたっぷりの充実感で満たされていた。
「ありがとうございます」。雨のヒーローインタビュー。シャイな男がアナウンサーの持つマイクに顔を近づけて笑顔で声を張り上げた。6月7日、交流戦の
DeNA戦(横浜)でうれしいプロ初勝利をつかんだのだった。
横浜スタジアムは午後2時の試合開始に合わせるように、濃い灰色の空から雨粒が落ちてきた。やむ気配どころか強まるばかり。こんな日に限って試合がもつれる。7回表にソフトバンクが2対2に追いつき、試合は延長戦に突入した。
延長11回表、伊藤は六番手で登板。先頭の
牧秀悟に左中間へ長打性の当たりを許すも中堅手の
周東佑京が二塁へ好返球しアウトにしてくれた。
「本当に助かりました。あの1アウトが大きかった」。続く
佐野恵太には四球を与えたが、降り続く雨で投げづらいマウンドでも
筒香嘉智、
宮崎敏郎と連続の空振り三振。中軸斬りで流れを呼び込むと、12回表に味方が2点を勝ち越した。
「12回の攻撃は、チームが勝てばうれしいなぐらいの感じでベンチで見ていました。そしたらカミチャ(上茶谷大河)さんに『優輔、これで勝ったら初勝利じゃん』って言われて。あ、そうかって感じでした」 欲なんてないつもりだったが、意識が芽生えると急に体が熱くなったような気がした。プロ1勝はやはり特別だ。最後の守りは
「ちょっと前のめりで、祈るように応援していましたね」と照れたように笑った。
初勝利の定番と言えばウイニングボールを片手に持って監督とのツーショット撮影だ。当然、雨は降り続いていたのだが、傘は手になかった。そこには球団広報の
鍬原拓也の気遣いがあった。
「カメラマンさんたちから『傘を持っていたほうが風変わりで面白い』とお願いされたのを僕がお断りしたんです。初勝利の記念写真は一生モノ。やっぱりカッコよく映ってほしいじゃないですか」
鍬原にとって伊藤は、大学でもプロでも同じユニフォームを着た1学年下のかわいい後輩だ。中大時代の野球部寮では同部屋の時期もある。そして
巨人でも共にプレーをした。伊藤は念願の巨人でプロ野球人生をスタートさせている。
「父親が熱狂的な巨人ファン。小さな頃から東京ドームに連れて行ってもらっていて・・・
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