2024年のオフ、DeNAから現役ドラフトで加入。25年シーズンはケガの影響もあり、8試合の登板で終わった。だが、今季は開幕から中継ぎ、先発とフル回転。福岡移転後初のリーグ3連覇に貢献した右腕は新天地での出会いをきっかけに新たな自分を見つけた。 文=田尻耕太郎(スポーツライター) 写真=高原由佳、湯浅芳昭、戸加里真司、BBM きっかけは何気ない1球
「僕の特集ならば、全ページ『ものまね』のグラビアにしましょうよ。連続写真に解説付きで!」 球界のお笑い怪獣こと、上茶谷大河の形態模写はたしかに芸術級の腕前で、かつ爆笑必至だ。レパートリーは
「ちょっとビッグマウスですけど」と前置きして
「マジで2兆はありますね」と胸を張る。十八番は、満員電車の中でスマホをいじっていてTikTokを開いたら音漏れしてしまった人、らしい。野球じゃないんかい! とツッコミは当然入れさせてもらったが、彼のものまね上手を真剣に褒めちぎる人物がいた。チームの投手陣を取りまとめる
倉野信次一軍投手チーフコーチ兼ヘッドコーディネーター(投手)である。
「めちゃくちゃ器用だからなせること。ものまねは観察力があって、特徴を捉えて、頭で理解したものを体で表現しないといけない。誰もができることではない。器用と言えば、今年の彼を見てすごいと思ったことがあります。同じ真っすぐでも球速帯を変えたり、例えばスライダーの曲げ方も自在に操って1球ごとに違う曲げ方にしているのです」
上茶谷は平均150キロに迫る直球に加えてスライダー、カットボール、フォーク、
シュート、カーブ、ツーシームと持ち球は多彩だ。その各球種をまるで細胞分裂させ、無限の球種に進化させているというのだ。真意を問うと、
「はい、してますね」と苦笑いで認めた。
「腕の位置や手首の角度を変えれば、スライダーでも曲がり幅や球速を変えることができます。結構、昔からです。でもフォームが変わるので、それを肯定してくれる人は少なかった。むしろ『やめなさい』と注意されました。だけど、今年の3月ですね。僕の背中を押してくれたのがキャッチャーの陸(渡邉陸)でした」 3月17日、上茶谷はファーム・リーグ西地区の
広島戦(タマスタ筑後)に先発した。開幕先発ローテーション争いをしていたが、調整登板がチーム都合でファームになったのを見て分かるように、番手は決して高くなかった。試合直前のブルペン。ふいに普段よりも腕を下げてスライダーを投げてみた。すると「カミチャさん、これめっちゃいいですよ。今日の試合で使いましょうよ」と渡邉から声が飛んできた。上茶谷は
「いや、コーチに絶対怒られる(笑)」と一度は拒否したが、あまりの熱量に最後はうなずくしかなかった。そこまで言うならば、と試合で試すと、スライダーがさえまくるではないか。7回1安打無失点の快投。登板後にも「やっぱり良かったでしょ。もう、使わないんですか?」と再び迫られた。
「陸とは初めてバッテリーを組んだんです。ああ言ってもらえて、僕も『やっていいんだ』と。あの日からですね。カットやフォークもいろんな投げ方をして、直球にも手を加えたのは」 悔しさを力にして
プロ8年目だった今季は、開幕からしばらくはリリーフで奮投。7月半ば以降は先発。計36試合(うち10先発)に登板し・・・
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