
4月21日の試合で史上65人目のサイクルヒットを達成した柳田。彼は球界を代表するオールラウンダー。今後の活躍も楽しみや/写真=高原由佳
まさかの衣笠さん訃報。精神的な強さにあこがれた
訃報が届いた。“まさか”だった。「鉄人」が天に召された……。体調がよくないとは聞いていた。でも……まさか、である。
衣笠祥雄さん。71歳の別れである。
広島と
阪神。グラウンドで顔を合わせ、あいさつをするくらいだったが、やはり衣笠さんは特別な存在だった。いつもカッコいいユニフォームの着こなしで、実にスマートやった。笑顔を絶やさず、かなり後輩にあたるオレにも「元気かい?」のハイトーンボイス。「ハイ!」と姿勢を正したわ。常にゲームに出続け、その肉体とともに、精神的な強さにあこがれた。1980年代の半ば、優勝を争った時期、衣笠さんは晩年を迎えていたが、そのプレースタイルは変わることなく、やはり鉄人は鉄人のままやった。だから、鉄人があっけなく亡くなったと、ホンマ信じられない気持ちでいる……。
その衣笠さんも達成したサイクルヒット(1976年7月7日、
巨人戦)が今週のキーワードになる。実はオレはプロでこの記録はないけれど、学生時代には達成している。早大3年生の春季リーグやった。東大2回戦、内容は思い出せないが、最後にホームランを残していた。もちろん、狙いにいったわ。そしてホンマにオーバーフェンスよ。このサイクルヒット、かなりの数があると思っていたら、ナント、史上2人目やったとあとで知った。長い東京六大学リーグ史上、2人目って、ホンマ珍しいことやったわけ。
さて、そうなると史上初のサイクルヒッターは誰なのか。実はオレが記録したシーズンに、法大のキャプテンやった居郷肇さんが先に記録していたのである。居郷さんは4年生で、その後、プリンスホテル野球部の第1期生となり、現在は
西武の球団社長兼オーナー代行や。その居郷さんが第1号で、オレが第2号。長い歴史の中で、サイクルヒットという部門で名を刻んだわけである。
いまさら説明するまでもないが、サイクルヒットとは、1試合の中でヒット、二塁打、三塁打、本塁打を記録することで、ひとつでも欠けたらサイクルヒットではない。プロ野球でもなかなか達成できないものだが、記録する選手には共通する特徴がある。
衣笠さんに代表されるようなオールラウンダーというか、ホームランも打てて、なおかつ足が速くて二塁打、三塁打を奪える脚力というか、それを備えたバッターやね。球場の大小があるから、かなり出やすい球場もあるのだが、やはり三塁打が最も難しいのやろな。外野の間を抜くとか、フェンスに当たって跳ねゴロの返りが不規則やったり、とかが三塁打の条件になるけど、何より足が速くないと、三塁は取れない。オレも何度かチャンスはあったけど、達成することはできなかった。力と運。サイクルヒットにはそういう要素も含まれている。
柳田には振る力がある。それも一つの能力や
「ということで、今年早くもサイクルを記録したのが
ソフトバンクの柳田(
柳田悠岐)選手なんですが……」と編集担当のS君。だからテーマをサイクルヒットに設定したいのだろうが、柳田……となれば、オレにはかなりのインパクトがあるんよね。
それはオレが
オリックスの監督のときやった。ソフトバンク戦に備えてミーティングがあり、その直前、柳田という選手が一軍に上がってきた……との情報。いわゆる柳田の一軍デビュー戦なんやけど、先乗りスコアラーの情報がこうやった。
「打てるコースは真ん中。それもストレート。変化球は打てない」
データもない選手やし、チームとしてはスコアラーの情報分析を必要とする。
そして迎えたゲーム。接戦の中、ソフトバンクの攻撃で、チャンスに柳田が出てきた。こちらのマウンドの投手はミーティングで分かっていたし、捕手もデータどおりに要求した変化球である。「変化球に弱い」はずなのに、柳田は実に簡単に打ち返したのである。
「どこが、変化球は打てない……なんや」。オレは思わず舌打ちしたわ。そらそうよ。情報とは真逆の結果やで。結局は、柳田のタイムリーで、オリックスの負け。それだけに「柳田」と聞くと、あの光景が今もなお、思い出されるのである。
当時から規格外というか、スケールの大きなプレーヤーだったけど、彼の何がスゴイかといえば“振る力”だとオレは考える。フルスイングをするのは、何もパワーだけではなく思い切り振れる能力があるから。なかなかバットを思い切り振れるものではないよ。しかし、柳田にはそれがある。少々、強引なところもあるけど、そこは振れる力でカバーしているわけよね。
先にも触れたが、柳田が先日、サイクルヒットを達成した。衣笠さんとの共通項というのか、柳田もオールラウンダーであり、ホームランを打つパワーに加え、飛び抜けた脚力の持ち主である。それはサイクルヒットとは別にトリプルスリーで表現されているわけよね。3割、30本塁打、30盗塁。率を残せ、大きいものも打て、走れる。いわゆる“万能型”の典型ともいえる柳田は、加えて守れるわけである。
サイクルヒットを達成するには最低4打席が必要なわけ。ということは、代打とか途中出場とか、終盤に守備固めで代わるとかの選手では、ほとんど無理な記録である。ということは、この記録こそ、バリバリのレギュラーの証しであり、試合に出続ける選手のみに与えられる勲章なんよ。オレはそういうふうにとらえている。
日本球界を代表するオールラウンダーである柳田は、まだまだ若い。今後、どんな記憶に残る、記録に残るシーンを見せてくれるのか、ホンマ、楽しみで仕方ない。(デイリースポーツ評論家)
PROFILE 岡田彰布/おかだ・あきのぶ●1957年11月25日生まれ。大阪府出身。北陽高では1年夏の甲子園に出場し、早大では東京六大学リーグ歴代1位の打率(.379)と打点(81)をマーク。80年ドラフト1位で阪神に入団。1年目からレギュラーとして新人王を獲得。21年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成した85年は五番打者としてベストナイン、ゴールデングラブ賞。94年にオリックスへ移籍し、95年限りで現役引退。通算1639試合、打率.277、247本塁打、836打点。オリックスで2年間指導の後、98年に阪神復帰。二軍監督などを経て、04年から08年まで監督を務め、05年はリーグ優勝に導いた。09年から12年はオリックスの監督として指揮を執り、13年からは野球解説者として精力的に活動している。