週刊ベースボールONLINE

プロ野球を支える仕事人

<TEAM STAFF CLOSE UP>データサイエンス スカウティングサポート・齋藤周(ソフトバンク)「アナリストは選手の成績だけでなく、野球への取り組み方の変化も近くで見ることができます」

 

野球人であれば誰もが憧れるプロの舞台。東大ではケガでプレーヤーとしての道をあきらめたが、裏方として4年時の春には、連敗を64で止めることに貢献。野球の世界で生きることを決め、大手企業の内定を断り、大学4年の11月にアナリストとしてプロの扉を開けた。
取材・文=壁井裕貴 写真=球団提供

データサイエンス スカウティングサポート・齋藤周[ソフトバンク]


プロとアマの違い


 2021年11月、ソフトバンクが一人の現役東大生をGM付データ分析担当として採用したことが話題を呼んだ。その注目の人物こそが齋藤周氏だ。東大野球部に選手として入部するも、ケガにより大学2年秋から裏方の学生コーチへと転身。大学3年秋からは、データ分析を通じてチームの戦略立案や選手育成をサポートするアナリストとしても関わるようになった。大学4年春には、東京六大学でのチームの連敗を64で止める1勝を法大から奪うことに貢献した立役者の一人だ。

 また、SNSを通じてデータ分析に関する情報発信にも力を入れていた。その中の一つの活動であるX(旧Twitter)をきっかけに、ソフトバンクからアナリストとしてのオファーが届いたのだ。自身の夢をかなえたが、プロの現場はまったく違うものだった。

「アマチュアとプロの違いは、試合数だと思います。アマチュアは約2カ月のリーグ戦で10〜15試合を戦います。1週間で多くても3試合です。ですので、目の前の試合を100%で戦い、全力で1勝を取りにいきます。しかし、プロは年間143試合をトータルで考えます。年間を通してどんな成績を残すかに焦点を置いています」

 齋藤氏が所属していた東京六大学は、同じ対戦で2勝したチームに勝ち点が与えられる短期決戦だが、プロは同じ相手と年間最大25回も顔を合わせる。

「アマチュアの場合ですと、もし癖を一つでも見つけられれば、そこを突いて勝つことができ、勝ち点を奪うこともできます。しかし、プロはたとえ相手の癖を見つけて攻略したとしても、次回対戦した際には、修正して試合に出場してきます」

 プロとアマチュアの違いに戸惑う日々。それでも、周りの先輩アナリストの方々のサポートを受け、業務を徐々に覚えていった。現在、ソフトバンクのアナリストの半分は元プロ野球選手、もう半分はほかで経験を積んできた人で構成されている。それぞれの視点が交わることで、さまざまな角度から野球を見ることができる環境に身を置いている。

 齋藤氏は、当初GM付データ分析担当としてチームに関わっていたが、23年から現在のスカウティングサポートへと活躍の場所が変わっている。

「肩書こそ変わりましたが、アナリストとしてやることは変わりません。ただ、2年目以降は、自分たちのチーム以外のことにも関わるようになりました」

 経験を積んでいくにつれて、見る対象はプロアマを問わなくなった。時には、高校生にデータ分析も教えるイベントなどアナリストとしての活動の幅は広がっている。自チームの中でも一軍から四軍まで、さまざまな立場の選手と接しているが、それぞれまったく違うアプローチをしている。

「一軍の選手は、いかに安定感を出すかということに焦点を置いています。持っている能力が100だとしたら、安定して80から90を出すためのアプローチを考えます。一方で、若手を中心としたファームの選手の場合は、伸ばすという観点で見ています。現在50の能力だったとしたら、60、70と成長していく方法を模索します。両方とも難しいですが、どちらかと言うとファームの選手の能力を伸ばしていくほうが難しく、やりがいがあります」

 アナリストは、単にデータを分析するだけではない。分析したものを選手の能力向上に直結するようにかみ砕いて伝えることも大事な仕事の一つだ。選手の現在地を見極め、“何をすべきか”を一緒に考えていく伴走者でもあるのだ。

「選手をサポートしていく中で変わっていくのは、成績やデータといった数字だけではありません。選手の野球に対する取り組み方や考え方が変わっていく姿を間近で見ることができます」

 データが浮き彫りにした課題が、具体的な練習方法や改善点につながり、高いモチベーションへと導く。選手の成長は、数字だけではなく野球に対する姿勢にも表れてくる。数字の裏側にある変化を読み取り、新しい刺激を与えるのも重要な役割である。

憧れの舞台に立って


 一軍、二軍ともに12球団でも屈指の設備がそろっているソフトバンク。一軍では試合前の打撃練習からトラックマンでデータを取るなど、充実した環境だ。

「チーム全体でデータに対する理解度は、年々上がってきているように感じています。当然ですがデータに対する捉え方、温度感は、選手それぞれです。その違いを把握したうえで、データをその選手にどのように伝えるのが最適かと考えることが、すごく難しい」

 近年、データ解析の発展が進んでいる野球界ではあるが、数字に対して苦手意識を持つ選手も少なくはない。さらにソフトバンクの選手数は、支配下、育成も合わせて12球団トップの120人と大所帯であるがゆえ、選手のプレースタイルを覚えるのも一苦労だ。

「年々、選手のことが分かるようになってきました。選手全員を把握することができているかと言われると難しいところではありますが……」

 選手の特徴はもちろん、性格、考え方、価値観などといった野球とはまったく関係なさそうなパーソナルなところを知ることも大事だと言う。

「普段の何気ない会話も大事にしていますが、やはり練習中のコミュニケーションが一番選手のことを知ることができます。データに関することを聞いてもらえますし、説明したときの反応が直接見られるのも大きいです」

データはもちろんのこと、選手の一挙手一投足も見てアドバイスをしている


 同じものを見たとしても捉え方、受け取り方は人それぞれだ。しかし、その共通点をつくるのが、データであると齋藤氏は言う。データという共通言語があることによって、相互の認識のズレをできるだけなくすことができるのだ。また、その共通言語が、短い時間でもより濃い会話を生み出すことにつながる。その際に大事になるのが、普段からのコミュニケーションで培った選手のデータに対する温度感だ。一方的にデータの結果を押し付けることはせず、選手の感覚も大切にする。

 選手の成長に寄り添っている齋藤氏が仕事をしていく中で大事にしている信念は“野球界の発展に関わること”だ。

「こうして、プロの世界で仕事ができることはとても光栄なことです。野球界に少しでも貢献できればと思います」

 幼いころから憧れ続けてきたプロ野球の世界。大学2年時にケガでプレーヤーとしての夢は途絶えたが、形を変えて憧れの舞台で働いている。野球界に少しでも貢献したいという思いは、大学3年時にSNSを始めたきっかけと同じだ。自身が持っている野球への知見を「中学、高校時代に知りたかった」という思いから、ターゲットを中高生に向けて発信し続けてきた。野球への熱き想いが現在の仕事へと結びついている。

 今も球場の片隅で、選手の背中をそっと支えながら、野球界の未来を見つめている。

PROFILE
さいとう・あまね●2000年1月29日生まれ。東京都出身。都立桜修館中高を経て東大に進学し野球部に所属。大学2年時に学生コーチへと転向し、大学3年からは兼任でデータアナリストも担当。22年1月からはソフトバンクでGM付データ分析担当、23年からはスカウティングサポートとしてチームに関わる。
舞台裏の仕事人

舞台裏の仕事人

野球界には欠かせない裏方さんを紹介する連載。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング