
延長11回裏無死一塁から盗塁を仕掛けた巨人。投手・田口が2ボールになると石川[写真]を代打に送りサヨナラ本塁打。見事な采配でした/写真=桜井ひとし
もう達観しているとしか言いようがありません。巨人の原(
原辰徳)監督です。こんな采配は、思い切り以上の思い切りと準備がないとできないです。8月24日の巨人対
DeNA戦(東京ドーム)の延長11回裏。重信(
重信慎之介)が先頭打者でライトへヒットを放った後です。無死一塁で打席にはピッチャーの田口(
田口麗斗)。構えは送りバント。しかしピッチャーのエスコバーはストライクが入らない。その2球目でした。
重信が盗塁を試み見事成功。ここは首位を走る巨人が動く場面ではありませんよ、普通は。私はお相撲さんとの交友関係もありますが、いろいろな関取に話を聞くと「がっぷり四つになった場面では動いたほうが負け」ということがよく言われているらしいです。
この試合展開はまさにがっぷり四つで、首位のいわば横綱から動いた。これはいろいろな意味で計算されていた采配でしょう。ここ数年の間に、打者が投手でバントと見せかけて、一塁走者が盗塁を試みるという作戦がトレンドにはなっています。
しかし、この11回裏にサインを出すこと自体がすごいと思います。しかも「This Ball」のサインです。この言葉の意味は、アウトになってもいいから、このボールで盗塁をするということです。実はDeNAの
ラミレス監督もこの「This Ball」のサインを出すときがよくあります。
この場面に話を戻すと、一塁走者は足の速い重信です。DeNAベンチもバッテリーもその足を警戒していたはずです。しかし、その前の1球目で、バッテリーが次の二番打者、坂本(
坂本勇人)の存在を考え、田口が犠打を100%の確率でやってくると思い込んだのだと思います。その様子を見て原監督が、「This Ball」での盗塁のサインを出したのだと思います。
こういうがっぷり四つの試合のときは、意外にいろいろなことを考えている間にスポットに入るときがあります。つまりDeNA側はバッテリーも含めベンチも、この興奮状態の中で一瞬のスキを見せてしまったのだと思います。ここである程度勝負は決まった感じはありました。
ここから原監督は勝負を仕掛けるのみです。2ボール後、田口に代打を送り、その打者・石川(
石川慎吾)は、3ボール2ストライクからフルスイングをしてサヨナラホームランが飛び出し勝利。デーブ的にはこのカウントになったら、四球でいいので捕手はボールの位置に構えるべきでした。劣勢な状況ですから、たとえ次が坂本でも、仕切り直しの意味で石川との勝負は避けてもよかったかなと思います。
それにしても、原監督の思い切った采配はすごいです。マスコミに対しても、「皆さん、好きに書いてください」と言っているようですが、失敗しても動じない仙人のような境地にいるのではないでしょうか。そうなると監督としては怖いものは何もないですよね。
PROFILE 大久保博元/おおくぼ・ひろもと●1967年2月1日生まれ。茨城県出身。水戸商高から85年ドラフト1位で
西武に入団。トレードで巨人入りした92年に15本塁打。95年現役引退。野球解説者やタレントを経て、2008年に西武コーチに就任し日本一に貢献。12年からは
楽天打撃コーチ、二軍監督を経て15年に一軍監督に就任した。15年限りで辞任し、16年から野球解説者をこなしながら新橋に居酒屋「肉蔵でーぶ」を経営している。