
5回裏、一死満塁のピンチに間を取ってマウンドの岡田(左)を落ち着かせた捕手の小林
開幕から2試合連続先発マスクの
小林誠司が作り出した60秒の間が、試合の流れを決定付けた。
3月8日、東京ドームで行われたオーストラリア戦は、結果的に
小久保裕紀監督が信頼を置く
中田翔、
筒香嘉智の中軸に豪快なアベックホームランが飛び出して、日本が4対1と快勝。前夜のキューバ戦に続く勝利で2次ラウンド進出を大きく引き寄せたが、中盤までは1点をめぐる重苦しい攻防戦だった。カギを握ったのが、5回裏の日本の守備だ。
この回、先発・
菅野智之が投球数制限(1次ラウンドは65球)のため一死一、二塁とピンチを招いたところで降板。2番手の
岡田俊哉がマウンドに上がった。岡田は昨年11月のメキシコ、オランダとの強化試合(計4試合)に初招集され、延長タイブレーク(無死一、二塁からスタート)での胆の据わった投球に小久保監督がほれ込み、今大会もメンバー入りした左腕である。
ところが、この日はストライクが入らない。暴投、ストレートの四球で一死満塁と逆にピンチを拡大させてしまう。このタイミングで
権藤博投手コーチがマウンドに向かったが、「気持ちばかりが空回りしていました。どんどん悪いほうにはまってしまった。自分の悪いときのパターン」(岡田)と続く打者にも2ボールと、登板から6球連続のボール。ここでの小林の判断が絶妙だった。
すかさず球審にタイムを要求すると、「誰がマウンドに上がっても、すごい緊張感があります。僕にできることは間を取ることだったので」と明らかに浮足立つ岡田の下へと駆け寄り、「自信を持ってど真ん中に投げよう」とひと呼吸。再開までの時間はわずか60秒足らずも、岡田にはそれで十分だった。小林の檄を受けた左腕は「タイミングよくタイムを取ってもらいました」と冷静さを取り戻し、次のど真ん中へのストレートで二ゴロ併殺。無失点でこの危機を乗り越えた。
試合後、小久保監督も「小林が非常にいい間を取って、次のボールでゲッツー。絶妙なタイミングだった」と拍手を送る。もし、あの場面で小林が間を取らなかったら。2次ラウンドに弾みをつける、中田と筒香の競演弾もなかったかもしれない。
文=坂本匠 写真=小山真司