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清宮の打席のとき、岩倉は内野に5人を置くシフトを敷いた
春季東京大会3回戦、早実は岩倉に9対4で勝利しベスト16入り。今夏の西東京大会のシード権を決めた。
高校通算80本塁打に王手をかけていた
清宮幸太郎は5打数2安打。待望の一発がお預けとなったばかりか、1年春のデビュー以来、公式戦では初めてと言ってもいい〝スランプ状態〟にある。
2安打の内訳(一塁強襲の内野安打と左翼への飛球が風に流され、捕球できずに記録は二塁打)も、本人が決して満足できる内容ではないはず。凡打はボールを引っ掛けたり、打ちたいがあまりに力んで飛球と、打撃内容が芳しくないのだ。
四番に控える2年生・
野村大樹も、ネクストから見て「いつもと顔が違う。アッパースイング気味。あんなに苦しんでいる姿を見たことがない」と、後輩までもが気にかけている。
清宮本人は「見ていないので……。内野の位置は気にしていない」と無関心を強調したが、岩倉が敷いてきた極端なシフトでやや、調子を狂わされたことも否定できない。
清宮の打席では内野5人(外野2人)。中堅手が内野(二塁ベース後方)に加わり、本塁から見て左から三塁、遊撃、中堅、二塁、一塁が並んだ。
その意図を岩倉・豊田浩之監督は説明する。
「(神宮)第二球場(両翼91㍍中堅116㍍も右中間、左中間の膨らみがない)なので、当たれば入る(本塁打)。仮にフェアゾーンに打ち上がったら、滞空時間が長いので、2人でも追いつける。内野を詰めておいて、間を抜かれないようにしました。でも清宮君が一枚も二枚も上でした。80号を打たれないでよかった(苦笑)」
野村の打席では「外野4人」(内野3人)だった。二塁手が右中間に入り、中堅手が左中間に就いたが、第2打席から実行した。野村は第1打席で、右中間本塁打を放っている。
「野村君のスイングの軌道とウチの投手(三田知樹)の対戦を実際に見てからにしました。低い弾道が多いので、外野の間を抜かれないように、網を張っておけばチャンスもあるかな、と」
野村は第2打席以降、4連続四球。結果的に岩倉は力負けしたものの、終始、早実ペースへ持ち込まなかったのは事実である。中堅から5度、二塁ベース付近へ移動した主将・森本克哉(3年)は言う。
「(シフトを)意識させてプレッシャーを与える。抽選会の段階から準備していました。普通にやったら勝てる相手ではない。思い切っていきました。効果はあったと思います」
たび重なる守備位置のチェンジに、スタンドは騒然。清宮は本塁打が出なくてもやはり、話題の中心だった。
なお試合後、清宮はシフトの感想を求められ「いや、いや……。面白かったです」と苦笑いを浮かべていた。
文=岡本朋祐 写真=BBM