ファン、いや暴徒に囲まれたダイエーの選手バス
プロ野球の歴史の中で、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は5月9日だ。
5月5日の敗戦時、選手バスに向かう
中日・
森繁和監督に罵声が浴びせられたという記事があった。開幕から続く低迷にフラストレーションがたまっているのは分かるし、ヤジを完全否定するわけではないが、できれば「ヤジは試合中、球場内、周りの人の迷惑にならないように」を最低限の観戦マナーとしてほしい。勝ちたいと思っていない監督、選手はいないのだから……。
それはさておき。昔の観客はいまとは比べものにならないくらい激しかった。罵声どころか選手バスをほぼ破壊してしまったこともある。
1996年5月9日の事件も強烈だった。大阪・日生球場での試合後、ダイエー(現
ソフトバンク)の選手バスを300人ほどが取り囲み、生卵、靴、石を投げつけ、「パ・リーグの恥」「腹を斬れ」と物騒な罵声が飛び交った。
この日の近鉄─ダイエー戦は、近鉄の本拠地が翌年から大阪ドームに変わることもあり、日生球場最後の公式戦だったが、しんみりムードはなく試合中からヤジが飛んだ。これはホークスを大阪から福岡に“奪われた”南海ファンが集まったこともあるが、とにかくチームが弱かった。ダイエーは、この試合に敗れ4連敗。開幕から9勝22敗となった。試合終了時には発煙筒や100本以上のメガホンが投げ込まれた。当時のダイエー監督は就任2年目の
王貞治だ。栄光の野球人生で最大の屈辱だったと思うが、「勝てば、この人たちも拍手を送ってくれるはず」と眉間にしわを寄せながらコメント。帽子のひさしには『我慢』の2文字が書かれていた。
ただし、ダイエーは、この悔しさもバネにし、99年に福岡移転後の初優勝。そのまま九州で黄金時代を築くことになる。あ、もちろん、だからヤジもたまにはいい、という話ではないので、お間違いなく。
写真=BBM