
迷いのないフルスイングは見る者を惹きつける
Bs・DH・
吉田正尚――。
5月16日に始まったオールスターのファン投票。今季の開幕前に腰痛を発症し、5月17日時点で一軍未出場の吉田正尚がノミネート選手に選ばれていた。期待の大きさと人気の高さを物語るが、何より彼の代名詞である迷いなき〝フルスイング〟には人を惹きつける力がある。そんなスイングを紐解くと、2つの思いが隠れていた。
本人は、果敢にスイングする理由をこう話す。
「どうせ1ストライクを与えるなら、振ったほうが絶対に良い。そこで何を感じるか。タイミングが合っていないのか、バットの出し方が悪いのか。ボールをとらえられない原因は振らないことには分からない。それも(バットに)当てにいくのでは分からない」
その考えに至るきっかけは何だったのか。そもそも振ることが怖くなったことはないのか。そんな疑問をぶつけると、少し声のトーンが落ちた。
「一度だけあるんですよね。あのときはスランプでした。気持ちの面でも」
その一度が敦賀気比高3年夏。1年時から四番に座り、1年夏、2年春に甲子園出場を果たし、迎えた最後の夏だった。「甲子園に行きたい。だから、自分が打たないと。でも、打てなかったら」――。そんな思いが悪循環を引き起した。好球にバットが出ず、悪球に手を出して不振に陥り、チームは県準決勝で敗退。そんな苦闘を力に変えたと感じ取れたのは、同校の東哲平監督を取材したときのことだ。
「彼(吉田正)は入学時からボールを遠くに飛ばす力は群を抜いていたんですが、どこか自信がなさそうで。でも、高校を卒業してから『目』が変わったんですよ。大学に行ってから堂々とハキハキと話すようになった。一皮むけたなと感じたのは卒業後です」(東監督)
「プロに行くため」と選んだ青学大で迷いを捨て、大学日本代表の四番を務めるまでに。
オリックスに入団した1年目の昨季、そして今季は、フルスイングの代償ともいえる腰痛に悩まされるも、信念がブレることはない。物語っていたのが、5月10日のウエスタン・
広島戦(舞洲サブ)。実戦復帰後、初打席の初球を〝フルスイング〟で左中間席へ本塁打を放ってみせた。
試合後に再び腰の張りを訴えて一軍復帰は未定の状況が続く。それでも、実戦復帰初戦で見せた故障も結果も恐れぬ〝フルスイング〟。苦い経験を糧に迷いは捨てた。すべては自らの未来を切り拓くため――。そんな思いが詰まったスイングだからこそ、周囲は彼の一振りに魅了されるのかもしれない。
〝夢〟の祭典・オールスター。一軍未出場の現在、選出は非現実的な状況も、投票用紙に刻まれた「Bs・DH・吉田正尚」の名には、苦境を力に変えて飛躍を遂げる〝夢〟が詰まっている。
文=鶴田成秀 写真=佐藤真一