球界屈指の〝理論派〟として知られる
オリックスのエース・
金子千尋。独自の考えを貫く根底には行動力がある。
その1つが調整法だ。先発ローテの合間に、1度もブルペンに入らぬ『ノースロー調整』を行うが、その理由ときっかけを聞くと、意外な答えだった。
「もともと僕が先発になったころは中6日で1回ブルペンに入っていたんです。ノースローにしたのは、2013年のオールスター明けから。オールスター休みの期間は、スタッフも休みたい。でも、僕が投げることによって、休めなくなるというときがあって。そのときの投手コーチが西本(聖)さんで。『投げないでやってみるか?』と言われて。次の試合も普通に投げられたので、そこからノースローになったんです」
肩は消耗品。長いシーズンを考えると1球でも少なく、かつチームに勝ちをもたらす投球『27球で完全試合』が理想と語る右腕ならではだ。だが、登板前に投球練習を行わずに不安はないのか。そう問うと、飄々と語った。
「不安や緊張というのは当たり前のもの。ないと逆におかしい。その中で、どれだけ自分の力を発揮できるかが大事ですから」
独自の感性と培ってきた技術が、投球を支えているのは言うまでもない。考えることも大事だが、まずは実践すること。動くことで何かを感じ、そして再び考える――。その繰り返しの中で成長を続けてきた。週刊ベースボール6月12日号(5月31日発売※一部地域を除く)に掲載する8球種に及ぶ変化球についてのインタビューを行ったときにも、それを感じずにはいられなかった。象徴するのが次の言葉だ。
「僕には変化球を『覚える』という感覚が分からないんですよ」
覚えるのはなく〝磨いていく〟という感覚なのだろう。そう尋ねてみた。
「変化球を覚えて、ボールを完成させてからではないと試合で投げない投手がほとんど。でも、いくら自分が自信を持って投げても、打者が打ちやすければ意味がない。反対に、未完成のボールで自信がなくても、打者が打ちにくければ、それでいい。そもそも、完成なんて、誰が決めるのか。大事なのは打者が打ちにくいかどうか。だから、試合で投げてみないと分からない、試合で投げることが一番、大事だと思うんです」
そうして培ってきた球種が8つ――。マウンド上で打者の反応を見て、どんな球種が必要か、どう変化させれば投球の幅が広がるのか。常に感じながら考えてきた。だから、語気を強めて言う。
「真っすぐで勝負することが『真っ向勝負』と言いますけど、だからと言って変化球は『逃げ』ではない。僕は変化球で攻めていますから」
実戦の中で変化球を磨いていく。〝理論派〟と呼ばれる右腕だが、話しを聞くと〝行動派〟であることがよく分かる。週刊ベースボール6月12日号で、そんな金子の脳裏を覗いてみてほしい。
文=鶴田成秀 写真=松村真行