少し前の話になるが、プロボクサー・村田諒太の振る舞いには純粋に感動を覚えた。5月20日、村田は世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王座決定戦(東京・有明コロシアム)で同級1位のアッサン・エンダム(フランス)に挑み、1-2の判定で敗れた。
その判定には多くの疑問の声が上がった。パンチの実数を重視する「手数派」と直接的なダメージを与える「有効打派」でボクシングのジャッジは分かれるからだそうだ。この試合では、3人のうち2人が手数の多かったエンダムを支持したため、途中、ダウンを奪うなどした村田が敗れた。
村田は試合の翌日、自身のFacebookを更新し、エンダムとの2ショット写真を公開。「エンダムと話してました。大切なことは、2人がベストを尽くしたこと、日本に来てくれて感謝していると伝えました。エンダムとエンダムのスタッフ達にも感謝いたします。ありがとうございました」とつづった。判定には納得いかない部分もあっただろう。だが、実際に拳を交わした当人だからこそ、認められるものがあるのだと思う。
交流戦でのソフトバンク打線である。四番・
内川聖一は好調を維持し、五番に座る
デスパイネは本塁打数でリーグトップ、三番・
柳田悠岐が上昇気流に乗り、クリーンアップの後ろを打つ
松田宣浩が復調して「有効打」を数多く打てるだけの役者がそろったところで今季初めて9人制で戦った6月2日の
DeNA戦では打率が3割を超える
上林誠知がスタメンから外れ、.282の中村晃が残った。
ボクシングと野球を結び付けるならば、オフェンスとディフェンスは表裏一体。手数を出せば相手の攻撃機会、つまり投球数は減るし、相手の手数、投球数を引き出すならばより確率高い攻撃の一手が求められる。
かつて中村晃が語っていたことがある。積極性が高い打者が並ぶソフトバンク打線で、ファウル打ちを駆使しての待球姿勢が目立つことに「初球から打っていっても100パーセントヒットになるとは限らない。そうであれば打てる球が来るまで待つ。それが投手に投げさせる球数の多さにつながっているのではないですか」と。
「四球÷三振」で算出されるBB/Kは三振一つに対する四球の数を表すもの。この数値が高い打者ほど選球眼が良いとされる。6月1日時点でソフトバンクでは内川の1.71に次ぐ1.43の数値を残す中村晃。ソフトバンクで規定打席に達している他の選手はいずれも1.00を切っている。
個の戦いであるボクシングと違いチームスポーツの野球は複数の個性を組み合わせて攻撃することが可能。他の選手と一線を画す中村晃のスタイルはソフトバンク打線に欠かせないものだと個人的には感じている。その存在価値は対戦する投手たちが一番感じているものではないだろうか。
文=菊池仁志 写真=湯浅芳昭