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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

何年経っても色あせぬ“熱い夏”

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坂元弥太郎(左)と中里篤史(右)。高校時代の写真を目にすると「懐かしい」と口をそろえた


〝あの日〟は強風で土埃が舞っていたのをよく覚えている。そう伝えると〝あの日〟の主役だった2人の記憶が一気に蘇る。静かに、そして、どこか嬉しそうに同時に声を弾ませた。

「そうそう。そうだったな」

 2000年7月30日、大宮公園球場で行われた高校野球 埼玉大会決勝──。注目は最速146㌔を誇る剛腕・春日部共栄高の中里篤史と、浦和学院高のエース・坂元弥太郎の両エースだった。県内屈指の両右腕による投げ合いは、互いに譲らず1対1で延長へ。最後は浦和学院高の劇的なサヨナラ勝ちで幕を閉じたが、歓喜のホームを踏んだのは奇しくもエース・坂元。そして中里は、本塁ベースカバーに入り、その瞬間を見届けていた。

「主審の手が横に広がって、大歓声の中で捕手の足立がうな垂れて。ああ、終わっちゃったんだなって」(中里)

 土埃が舞う中で歓喜に沸く坂元と、呆然と立ち尽くす中里──。その無情のコントラストが激闘を象徴していた〝あの日〟の試合。その試合を昨年、小社から発行した『埼玉大会展望号』の巻頭対談で両右腕に振り返ってもらったのだが、スコアブックを見ずにして試合展開をスラスラと語る2人に、ただただ驚かされた。

「あの試合は忘れられないよ」(坂元)

「俺もそう。完全燃焼できたし、不思議と涙は出なかった」(中里)

 高校卒業後に坂元はヤクルト、中里は中日と、互いいプロ入りを果たしたが、現在はともに現役を退いている。それでも坂元は地元・埼玉で小中学生を指導し、中里は巨人のスコアラーを務め、今なお野球に携わる。根っからの野球小僧。だからなのだろう。誌面では伝えられなかったが、2人は対談を終えるとキャッチボールを始めた。

「まさか、こうしてキャッチボールをする日が来るなんてな」(坂元)

「俺だって思いもしなかったよ」(中里)

 色あせぬ〝熱い夏〟。それは決して甲子園だけではない。参加1校1校、そして一人ひとりにドラマはある。そんな夏を前に今年も7月8日に開幕する埼玉大会の展望号(6月30日発売予定)の作成に追われる日々を過ごしているが、編集作業の活力となるのは白球に青春を捧げる高校球児たちの熱い思い。十数年後、坂元と中里のように本を片手に、思い出話に花を咲かせてもらえたら──。

文=鶴田成秀 写真=桜井ひとし

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