
3年前の夏が、ドラフト候補の田嶋の成長を支えている
今年、5月。都市対抗予選を直前に控えたJR東日本の
田嶋大樹は、栃木県の母校・佐野日大高を訪れた。後輩たちは最後の夏に標準を定めて汗を流す日々。その練習を見届け、そしてメッセージを送る。
「一生に1度しかない最後の夏。僕は全力を出せなくて後悔しか残っていない。だから、みんなは全力を尽くして、後悔なく夏を終えてほしい。甲子園を目指して全力で頑張ってください」
約10分間にわたって伝えた思いの丈。今年4月から同高の指揮を執る元
阪神・
麦倉洋一新監督は「強いメッセージが込められていた」と、その光景を見届けた。
2014年7月27日──。同春のセンバツで4強入りを遂げ、全国屈指の左腕として名を馳せた田嶋は、夏の聖地帰還を目指して栃木県大会決勝までコマを進めた。作新学院を相手に夢切符を懸けた戦いは、初回に佐野日大高が1点を先制し、先発・田嶋は5回まで無失点の好投を披露。
だが、異変が生じる。ノビのある140㌔後半の直球が一転、5回から130㌔前半に。左ワキ腹に痛みが出て、6回途中で降板。すると、その6回に逆転を許して1対7で敗れ、春夏連続での甲子園出場は断たれた。
「今思うと『あっ、やっぱりな』と。センバツで連投して以降、練習試合では最大5回を投げる程度。体の状態も万全ではなかった。その中で前日の準決勝で完投して迎えた決勝でしたし、故障がちの高校生活に無念はあると思います」
同校の赤坂秀則コーチが回想するとおり、無念の思い。「とにかくチームに迷惑をかけた」と左腕は同夏を振り返る。そして「実力も体力もない」とプロ志望届けは提出せず「プロに近い環境で自分を磨きたい。それなら大学より社会人。大学進学は選択肢になかった」と、JR東日本に進んだ。
高3夏を糧に自らの成長を期した。社会人1年目はランニングやダッシュを繰り返し、体力強化に努め、2年目は違った〝体力〟を培った。
「単純な体力と『投げる体力』って違うと思うんです。いくら走っても、肩のスタミナは付かない。それに僕、試合中盤の6回に打たれるケースが多いいんですよね。長いイニングを投げるには、やっぱり投げ込んで『投げる体力』を付けないと」
春のキャンプ時に毎日プルペンで100球の投球練習を行い、3日に1度はプラス50球を課し、徹底的に投げ込んだ。結果、直球の最速は高校時代から7㌔アップし、152㌔までに。自身の成長のため。そして、何よりチームの勝利のために。田嶋の原動力はそこに尽きる。
「プロに入る前に『都市対抗』『日本選手権』で優勝してチームで喜びを分かち合いたいんです。今年は最高の年にしたい」
5月末の予選を突破し、東京第三代表として都市対抗の出場権を得たJR東日本。話題や人気の面では高校、大学よりも劣りがちな社会人だが、
山岡泰輔(東京ガス-
オリックス)、
源田壮亮(トヨタ自動車-
西武)、
糸原健斗(JX-ENEOS-阪神)ら今年、プロ入りを果たした面々を見れば、その実力の高さは実証済み。7月14日に開幕する『都市対抗』を制し、2017年社会人No,1の称号を。高卒3年目を迎え、ドラフトが解禁される田嶋は、チームのために左腕を振り続ける。
文=鶴田成秀 写真=中島奈津子