
現役引退を表明した井口
2013年のシーズン前、当時日米通算2000安打を目前としていた
ロッテ・
井口資仁に選手コラムをお願いし、快諾してもらうことができた。隔週連載のため、取材は月に2回。QVCマリン(現ZOZOマリン)で毎回15分ほど話を聞くのがお決まりとなっていた。
シーズンを通して取材する選手コラムは、なかなかにリスクの多い連載だ。不調やケガの不安はいつも付きまとう。もちろん普段から選手には無事にプレーしてほしいとは思っているが、特にこのときは、死球でも受けようものなら自分のことのようにハラハラしたものだ。
心配は杞憂に終わり、井口はこの年、135試合に出場し打率.297、23本塁打、83打点の堂々たる活躍ぶり。7月26日の
楽天戦(Kスタ宮城、現Koboパーク宮城)では
田中将大(現ヤンキース)からソロ本塁打を放ち、日米通算2000安打も達成した。
さて、この連載の取材中にとりわけ記憶に残っている出来事がある。当時、球界を騒がせていたのが統一球問題。11年から導入された統一球だが、12年までに使われていたボールは規定の平均反発係数を下回っており、13年から公表されることなく反発係数が上げられていた。
「今年は飛ぶボールが使われている」
そんな論調の中、井口にも打者としてどう感じるかを話してもらった。その中で井口はきっぱりと言い切った。
「報道ではよく『飛ぶボール』という言葉が使われるけど、今のボールは基準の反発係数の下限に近いもの。あくまでも去年と比べたら飛ぶということで、決して飛び過ぎているわけではないし、しっかり打たないと良い当たりにはならない。そこはしっかり伝えてほしい。ホームラン増加をすべてボールのせいにするような報道は、野手にとって失礼だと感じる」
ただグラウンドでプレーするだけの選手であれば、この言葉は出てこなかっただろう。見られる、あるいは伝えられる立場としての自覚があったからこそ、野手の気持ちを代弁することができたのだろう。
6月20日、井口は今季限りでの現役引退を表明した。パワフルな打席が来季は見られなくなると思うと寂しいが、たとえ現役を退いても、マスコミを含めた球界をより良くしてくれるのではないか、と思っている。
文=吉見淳司 写真=ワンダン・ダワー