
色鮮やかなピンクのTシャツで取材場所に現れた松井裕樹選手
松井裕樹選手の「変化球」が冴え渡っていた。といっても野球ではなく、トークのほうの話だ。先日、7月10日号の
楽天特集で松井裕選手と
高梨雄平選手のサウスポー対談をやらせてもらったが、記者がひっくり返りそうになるほど盛り上がる内容となった。
その仕掛け人はもちろん、松井裕選手だった。若手同士といっても、21歳の松井裕選手、24歳の高梨選手と3歳違い。サウスポー、ブルペンというキーワードだけで結びつけた企画で、高卒4年目、社会人1年目という境遇の違いもある。正直、話が盛り上がるかどうかは、取材当日まで私の心の中で不透明だった。しかし、その心配は杞憂に終わる。
とにかく、松井裕選手はエピソード持ち。野球の取材をしている記者には知り得ないとうなプライベートな部分を、どんどん明らかにしていくのだ。それによって高梨選手の素顔が見えてくる。中には、記事にできないような「面白過ぎるネタもあったのだが……。
私が感心したのは、後輩の松井選手の細かな気遣い。例えば、「高梨さんは部屋が汚い」と落としつつ、最後には「それでもマウンドでは緻密にコーナーを突くんですよね」と持ち上げる。この緩急が実に見事なのだ。だからこそ、「先輩いじり」をされる高梨選手も懐の深さで受け止めるのだ。
そして、ふざけた話をしながらも、最終的には「救援投手のあるべき姿」という真面目な結論に自ら持っていく。頭の回転が速く、取材者の意図を理解した話の進め方に、うなるしかなかった。「真っすぐあっての変化球」。松井選手の姿を見ていて、そんな言葉が頭に浮かんだ。
文=富田 庸 写真=川口洋邦