
ダルビッシュの本拠地デビュー戦で負けそうな展開での9回裏にプイーグ(写真)の適時打でサヨナラ勝ちしたドジャース。その強さの秘訣はフロントとコーチ陣の密接な連携にある
現地時間8月16日、注目された
ダルビッシュ有のドジャー・スタジアムデビュー戦。6回まで投げ3失点。2対4と敗色濃厚で9回裏を迎えるが、ドジャースは一死からの4連打でホワイトソックスを逆転。今季MLBチーム最多となる10度目のサヨナラ勝ちをした。降板後、トレーナー室にいたダルビッシュは「あの展開では、良くても延長に行って勝つか負けるか。それがあそこで一気に勝ち切ってしまう。本当にすごい」と目を丸くした。
これで85勝34敗の貯金51個。2001年のマリナーズ、1906年のカブスが持つシーズン116勝の記録に匹敵するペース。というより記録を塗り替えそうだ。というのは7月4日以降では30勝5敗と、後半はまさに無敵なのだ。
筆者が幸運に思うのは、01年の
イチローがけん引者となったマリナーズ、そしてダルビッシュ、
前田健太の2人が先発ローテーションで投げる今季のドジャースと、メジャーの歴史の中でも特別な両球団を取材できていること。どんなに劣勢であっても、最後は勝つんだろうな、という感覚を持たせるチームはそうそうない。
とはいえ、この両チームには大きな違いがある。01年のマリナーズは先発3人が200イニングを投げ、ブルペンも野手もほぼ不動のメンバー。シーズンを通して起用した投手は15人だった。今季のドジャースは投手がすでに23人も起用され、200イニングを投げる先発投手は一人もいない(ダルビッシュはレンジャーズと合わせれば超えるペース)。
ちなみに昨季は31人の投手を使った。かつては、メンバーが頻繁に入れ替わっているようではまとまらないし、本当に強いチームにならないと信じられてきた。だがドジャースはどんどん強くなっていく。1年前、レンタルプレーヤーで移籍してきた左腕のリッチ・ヒルはジャーニーマンでドジャースが8球団目だが、「ここの環境は今まで経験したことがない。フロント、現場、みんなが焦点を絞って、努力を積み重ねる。どのチームも選手は練習熱心だし、うまくなりたいと思っているけど、ここでは結果ではなく、努力にフォーカスする」。
フロントとコーチが直接データをやり取りし、常に意見交換をしている。一枚岩だから、新しい選手も溶け込みやすい。トレードが野球人生で初めてだったダルビッシュも同様だった。合流後1週間で「慣れたか」と訊かれると「最初の1日くらいで、その次の日から普通にいます」と言う。
レンタルプレーヤーと呼ばれ、その場しのぎの立場であることについても 「まったく気にならない。何も思わないです」と話した。ヒルは1年前の移籍後、プレーオフまで好投を続け、オフに3年4800万ドルで残留合意。レンタルプレーヤーではなくなった。
「勝つチャンスのないチームから、優勝を狙うチームに行くだけで、気持ちの面でまったく違う。球団は勝ち続けることで、良い文化が育まれていく。環境を楽しみ、自分をレンタルと思う必要はまったくない」
現在のドジャースは今後強いチームを作るプロトタイプになりそうだ。116勝の記録更新。88年以来のワールド・シリーズ制覇とともに、その面でも興味深いチームになっている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images