
大雨の中、黙々と投げ込まれたゴミを拾う横浜ナイン。多くのファンが自分たちの行為の情けなさに涙した
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわって「その日に何があったのか」紹介していく。今回は9月3日だ。
前日、1997年のペナントレースの行方を決めた9月2日の首位攻防の横浜戦(横浜)で
ヤクルトの左腕・
石井一久が遂げたノーヒットノーランを紹介したが、今回は、その次の日の同じく横浜─ヤクルト戦とさせていただく。結果から言えば、横浜が敗れ、ヤクルトにマジックが点灯したセの「終戦記念日」的な試合となるが、当時のファンの間では、98年の優勝、日本一につながった大きな試合とも言われている。
試合は横浜ファンにとってフラストレーションがたまる展開だった。前日の完敗のショックもあってか、この日もチャンスにもなかなか得点が奪えず、1対1で迎えた8回表二死一、二塁の場面では、次の打者が投手の
高津臣吾とあってセオリーなら敬遠だが、
大矢明彦監督は打者・
土橋勝征との勝負を指示し、決勝タイムリーを許し、試合は1対3で敗れた。
当時の横浜らしいイ
ケイケの攻撃であったが、「逆転優勝」と意気込んでいたファンにとっては、歯ぎしりするほど悔しい敗戦だった。
ターニングポイントになったのは、試合ではない。21時近くになって降り始めた雨で試合が中断した際だ。
イライラを募らせたライト側のスタンドからメガホンやゴミが次々グラウンド投げ込まれ、乱入者も出る騒ぎとなった。このとき突然、横浜ナインがゴミ袋を手にライトスタンドに向かった。騒ぎを収めるためではない。ゴミ袋を手にし、無言でだ。しかも控え選手ではない。
駒田徳広、
佐々木主浩、
鈴木尚典らが雨の中、係員とともに無言でゴミを拾った。スタンドはシーンと静まりかえり、涙目になったファンもいる。
9月5日には、横浜スタジアムの外野スタンドに「選手のみなさんごめんなさい」の文字が現れた。あの試合により、以後、ファンと選手が本当の意味で一体となり、翌年の歓喜へと走った……と言うと感傷的過ぎるだろうか。
以後、チーム内のゴタゴタもあって低迷。なかなか一体感が作れなかったベイスターズだが、球団の地道な努力もあって、初のCS進出を果たした昨年あたりから急激にチームとファンの一体感が強まっている。
これは、ふたたび歓喜のときが横浜にやってくる予兆なのだろうか。
写真=BBM