読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は打者編。回答者は巨人でシュアなスラッガーとして強打を発揮した、元巨人の吉村禎章氏だ。 Q.ここ数年、日本ハムの中島卓也選手のカットが話題になっていますが、僕は際どいコースのボールをカットできず、三振をしたり、フライになってしまうことがあります。うまくカットする方法を教えてください。(北海道・13歳)
A.意識してカットするのはかなりの高等技術。追い込まれたらミートに徹してコンパクトに。

イラスト=横山英史
カットは多くの方が考えている以上に難しい高等技術です。一朝一夕で身に付くものではありませんが、まず
中島卓也選手のカットについて解説していきましょう。
たびたび話題となる中島選手のカットですが、彼もプロのバッターですから、甘いボールが来れば、カットなどせず、確実に打ち返していきます。また、追い込まれるまでは狙ってカットすることもしないでしょう。彼が素晴らしいのは、追い込まれた後の意識です。
中島選手は長打を期待されるバッターではないですから、まず出塁すること、チャンスメイクをすることを第一に考えています。追い込まれると簡単にストライクを見逃すことはせず、ストライクかボールか、どちらに転んでもおかしくないボールは確実にファウルにして失投(甘いボール)を待つか、ボール球を誘って四球で出塁しようと試みます。
それこそ相手バッテリーが嫌がるくらいにしつこく、しつこくファウルを打ち、自分が有利になるように仕向けるわけです。また、彼は自分がアウトになっても、球数を多くほうらせて相手ピッチャーにダメージを負わせることで、そこから味方が攻略してくれればいいと考えているのでしょう。これが中島選手の“カット”なのだと思います。
さて、そこでカットをする方法ですが……、前述したように意識的にカットをするのはなかなかの高等技術です。まず何より大切なのが、1、2ストライク目までと、2ストライク以降の意識を変えることでしょう。追い込まれると多少はボール気味でも、手を出していかないといけません。また、バットを少し短く持ったり、スイングをコンパクトにする対応も必要だと思います。バットを短く持てば持つほどスイングの幅が小さくなるので、振りも鋭くなりますし、バットにボールが当たる確率も上がるでしょう。
これを踏まえ、わざとカットするというよりも、追い込まれたらミートに徹することで、際どいボールでもバットに当てることができるようになり、「うまくファウルにできた」という形になっていくのがベストだと私は考えます。意識してカットをする技術は、これらを積み重ねた、もっと先の話です。
●吉村禎章(よしむら・さだあき) 1963年4月27日生まれ。奈良県出身。PL学園高から82年ドラフト3位で巨人入団。98年現役引退。2002~03、06~11年は巨人コーチ。現役生活17年の通算成績は1349試合出場、打率.296、149本塁打、535打点、40盗塁。