
優勝を決め、マウンドで絶叫する川口
このゲーム差を超える逆転劇もあるのだが、大差をつけられた2位チームの優勝の可能性を語る際、必ず出てくるのが「メークドラマ」という言葉だ。
1996年のセントラル・リーグの激闘の中で一時、首位・
広島に11.5ゲーム差をつけられた
巨人・
長嶋茂雄監督が口にした言葉で、いわゆる和製英語だが、長嶋監督もそれを知りつつ「ファンに親しみやすい言葉だったから」と使い続けた。
選手も、マスコミも、ファンも、この「長嶋マジック」に乗り、日に日に「まだいける!」という雰囲気に変わっていった。
斎藤雅樹、
ガルベスが先発の軸となり、
仁志敏久、
清水隆行の新人コンビが躍動、
松井秀喜のバットも活躍……結果論で申し訳ないが、そもそも、この戦力で負けるはずがなかった、とも言えるだろう。
10月6日は、その大逆転劇が完結した日だ。ナゴヤ球場での
中日戦。この試合まで3日間、試合がなかった巨人に対し、2位につけていた中日は前日までに6連勝と勢いがあった。
しかし、巨人は強い。
大森剛のソロ、マックの3ラン、清水のソロの本塁打で挙げた5点を
宮本和知、
木田優夫、
河野博文、
水野雄仁、
川口和久のリレーが2失点で抑えて守り切り、勝利。胴上げ投手となった川口は、マウンドで雄たけびをあげ、グラウンドを1周する際は号泣していた。
95年にFAで広島から加入した左腕。1年目は思うような活躍ができず、優勝を逸した戦犯のように言われた。この年も故障に苦しみ、ついに先発からリリーフ転向。体も一から作り直した。夏場の復帰後は抑えとして大活躍し、この日、最後に投げるのも長嶋監督から試合前のホテルで告げられていたという。おそらくは、長嶋監督からの復活のご褒美だったのだろう。
「2アウトの時点で、最後は、どういうポーズが一番いいのかなって思ったけど、結局、頭が真っ白になって涙が止まらなくなった。それだけ懸けるものがあった年です」と、のちの川口。試合後の長嶋監督は、「今年は選手のパワーに乗ってやってきました。選手に助けられての優勝です」と言って、満面の笑みを浮かべた。
写真=BBM