ペナントレースが終盤となった9月30日の横浜スタジアム。18時の試合開始に向けて
広島の選手が練習を行う中、調整を終えたジャクソンがベンチへ。その道すがら、三塁側の観客席からの声に応えてスタンドへと近づいていくと、次々と差し出されるユニフォームや色紙にサインをし始めた。
その傍らにはそれまで練習に付き添っていた通訳の松長洋文さんの姿が。松長さんはジャクソンがサインをしていることを確認すると、スタンドに背を向けてホーム方向へと向き直った。
ファンからの要望に丁寧に一つずつペンを走らせるジャクソン。サインは5分以上におよび、松長さんはその間ずっと、ジャクソンとは反対方向を向いたまま。やがてファンサービスを終えたジャクソンとともにベンチへと戻ってきた松長さんは、その意図をこう教えてくれた。
「サインを書いている間に打球が飛んでこないか注意しているんです。もし選手に直撃したら大変ですからね」
実はこのとき、グラウンドでは打撃練習の真っ最中。ファンのほうを向き、さらにサインをしている選手が打球の行方に注意を払うのは難しい。存分にファンサービスができるようにと、松長さんはグラブをはめたまま、打撃練習を注視していたのだ。
「カープのような素晴らしいファンは世界中どこに行ってもいない」と、入団1年目の昨季からファンの応援に感謝していたジャクソン。そのためかファンサービスにも積極的だが、その環境を松長さんが陰ながら支えているのだ。
文=吉見淳司 写真=高塩 隆