野球人生をかけた一大勝負

秀岳館高・田浦はチェンジアップの握りでポーズ。10月26日のドラフトを待つ
「世界のTAURA」――。
アメリカ、キューバなど各国の強打者を封じたチェンジアップの謎を探るべく、熊本県八代市内の秀岳館高を訪ねた。
9月のU-18ワールドカップ。悲願の「世界一」を目指したカナダ・サンダーベイで一際、輝きを放ったのが侍ジャパンU-18代表の左腕・
田浦文丸だった。
日の丸の守護神としてフル回転し、6試合、13回2/3を投げて、29奪三振(失点5、自責点2)。どんな場面でも堂々とした姿で、幾度も日本のピンチを救った。
そんな田浦も、かつては「上がり症」だったという。しかし、2年春から4季連続で甲子園を経験し、「どんな応援があっても気にならない。自分の投球ができる」と、全国舞台で得た自信は大きかった。
精神面が充実すれば、怖いものはない。以前から定評のあった右打者の内角に切れ込むスライダーに加え、投球の幅を広げたのが2年秋に新たに習得したのがチェンジアップだった。1学年上の右腕・堀江航平(現JFE東日本)と、同級生でともに侍ジャパンでもプレーした左腕・
川端健斗(大学進学希望)から基本的な握りを教わり、自らでアレンジして完成させた。
右打者の外角へ逃げるようにして落ちる。まさしく、この“魔球”こそ、強振してくる傾向のある外国人打者には効果的だった。奪三振率19.10。救援部門でオールスターチームに選出され、まさしく「世界のTAURA」となったわけである。
極端な話ではない。カナダは野球人生をかけた一大勝負だったという。秀岳館高は2年春から今春まで3季連続で甲子園4強進出も、今夏は2回戦敗退を喫した。田浦は広陵高との2回戦で、勝ち越しを許した7回途中から先発・川端を救援。相手の勢いを止められず、9回に
中村奨成に本塁打を浴びるなどして、惜敗している。
「甲子園でああいう結果だったので、プロに行くには全然ダメ……。せっかくのチャンス。良い結果を残そうと思いました。すごく自信になりました」
ラストアピールに成功した田浦はプロ志望届を提出し、10月26日のドラフトを待っている。
「優位に立てるボール」と絶対の信頼があるチェンジアップだが、田浦は冷静である。
「外国人は日本のバッターとは雰囲気、体格、構えも違う。投げやすいところもあった」
つまり、国際舞台で通用したからといって、即プロでやっていけるかは「別物」だという。
帰国後のブルペンでは左打者の内角を突くワンシーム、右打者の外角を攻めるカットボールを磨いている。これまであまり使ってこなかった球種で、プロへ向けてレベルアップに努めている。U-18W杯では救援での適性を見せたが「先発もやれる。言われたところで準備していきたい」と意欲十分。新たな魔球を携え、田浦は次なるステージへと挑戦していく。
文=岡本朋祐 写真=BBM