日本シリーズになると必ず話題になるのが、神がかり的な働きをする“シリーズ男”だ。短期決戦で力を発揮するのは簡単ではない。負のループにはまると、そこから抜け出せない選手も数多くいる。頂上決戦で光り輝くにはどうすればいいのか。過去に日本シリーズでMVPを獲得した男の話に耳を傾けてみよう。 2度の日本シリーズMVPに輝いた今江

2005年、プロ4年目で日本シリーズMVPに輝いた今江
シリーズ男――。
最長7試合の短期決戦である日本シリーズで結果を残す“お祭り男”が必ずと言っていいほど出て来る。調子が良ければ一気に波に乗り、調子を落として試合に入ると、そのままの状態で終わることがある。選手には“調整”という難しい技術が求められるのだろう。よくシリーズ後に負けたチームで無安打に終わった四番打者、期待を裏切ったエースがマスコミで“戦犯”にされているのを目にするが、まさに彼らこそが調整に失敗した典型的な例だ。
日本ハム在籍時の2006年、
中日との日本シリーズでMVPに輝いた
稲葉篤紀(現侍ジャパン監督)もかつて「短期決戦は本当に難しいもの」と語っていた。
「本番への持って行き方が難しいんですよね。誰でも、気持ちは入っているんですよ。でも、調子がいい人と悪い人が絶対に出てきますから。どんな選手も大舞台は緊張するはずで、精神面の強さも必要です」
シーズンと同じようにプレーできるかが重要になるが「打てなければ焦ってくる。焦れば焦るほど、ヒットが欲しいと欲がどんどん出てくる。それによって、知らない間にバッティングフォームも変わってきてしまう」という。そこで大事なのはいい意味での開き直り。思いつめるのではなく、その状況を楽しむくらいの気持ちでいなければ打開策は生まれない。
2005年、2010年と出場した2度の日本シリーズでいずれもMVPに輝いたのが
今江年晶(当時
ロッテ、現
楽天)だ。プロ4年目で一軍に定着したばかりの05年、
阪神との日本シリーズで初打席初本塁打をマークしたのを皮切りにシリーズ記録の8打席連続安打。2度目の10年、中日との日本シリーズも初戦で決勝打を含む3安打を放つと、第7戦でも4安打の固め打ちと打棒が爆発。通算成績は11試合、42打数22安打、1本塁打、10打点、打率.524とすさまじいものである。
なぜ、日本シリーズで猛打を発揮できたのか。今江はかつて週刊ベースボールのインタビューで次のように答えていた。
「打撃に関して言えば、日本シリーズですごく重要だと思うのは第1打席。僕の場合、05年は第1打席のホームランで勢いに乗った部分がありますし、10年は送りバントだったんですけど、それが成功して気がラクになったのかなと思います。どういう形でシリーズをスタートするかは、めちゃくちゃ大切。だから、うまくスタートできずに逆の結果になってしまうケースもあると思います」
今日から始まる
ソフトバンクと
DeNAの日本シリーズ、果たして“シリーズ男”となるのは誰か、注目したい。
[21世紀以降の日本シリーズMVP] 2001年
古田敦也 捕手
ヤクルト 2002年
二岡智宏 内野手
巨人 2003年
杉内俊哉 投手 ダイエー
2004年
石井貴 投手
西武 2005年 今江敏晃 内野手 ロッテ
2006年 稲葉篤紀 外野手 日本ハム
2007年
中村紀洋 内野手 中日
2008年
岸孝之 投手 西武
2009年
阿部慎之助 捕手 巨人
2010年 今江敏晃 内野手 ロッテ
2011年
小久保裕紀 内野手 ソフトバンク
2012年
内海哲也 投手 巨人
2013年
美馬学 投手 楽天
2014年
内川聖一 外野手 ソフトバンク
2015年
李大浩 内野手 ソフトバンク
2016年
レアード 内野手 日本ハム
写真=BBM