長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。 「気持ちが入っていないから……」

通算221勝を挙げたアンダースローの皆川
南海のアンダーハンド・
皆川睦男が、若手時代の試合で3ボール0ストライクとなったとき、「どうせ打ってこないだろう」と、ど真ん中にすっと投げ、打者も見送った。
しかし、二出川延明球審(かつて西鉄・
三原脩監督が試合中のジャッジについて講義。審判室にいた二出川に対し、「ルールブックを見てくれ」と言うと「俺がルールブックだ」と言ったという伝説の名審判)のジャッジはボール。もちろん抗議したが、返ってきた答えは「気持ちが入っていなかったからボールだ」。皆川はのち「これで1球の大切さを学んだことが、その後、大きなプラスになった」と振り返る。
二出川は、同じことを有望投手によく言っていたようで、新人時代の
稲尾和久も同じことをされ、新人だから抗議もできず、後日になって、おそるおそる理由を尋ねると「プロの投手にとってど真ん中はボールなんだ」と言われた。
いま思えば、かなりの暴論だが、稲尾もまた「どんな状況でもど真ん中に気のない球を投げてはいけない。油断するなということか。それがプロの厳しさなんだ」と思ったという。逆に言えば、どんなことでも自分の糧とするのが、一流になる条件なのかもしれない。
皆川睦男(みながわ・むつお)
1935年7月3日生まれ。山形県出身。54年に南海入団も肩を痛め、アンダースローに転向したことでブレーク。56年に初勝利を含む11勝、以降2ケタ勝利12回の活躍。62年は19勝4敗、66年は18勝7敗でともに勝率リーグ最高。68年は31勝で最多勝、防御率1.61で最優秀防御率に輝き、通算200勝も達成している。70年に登録名を「皆川睦雄」に変更、翌71年限りで現役引退。2005年2月6日死去。11年野球殿堂入り。主なタイトルは最優秀防御率1回、最多勝利1回。通算成績759試合登板、221勝139敗、防御率2.42。
写真=BBM