
星野氏は常に被災地のことを忘れなかった
強さとは、優しさとは何か――。
不器用に生きた男が残したものに、多くのファンが感謝を伝えた。1月7、8、9日の3日間、
楽天生命パークに
星野仙一元楽天監督への献花台が設置され、そこには連日多くのファンが、それこそ親子や夫婦、カップルなど、老若男女問わず訪れた。その場からなかなか立ち去ることができない人、涙を流して別れを惜しむ人、その突然すぎる別れに誰もが衝撃を受け、動揺を隠しきれずにいる。
「東北のファンは優しすぎる」
かつて星野氏はファンに対してもっと厳しくしてくれと注文をつけた。球界再編の波にさらされ、2005年に新規参入した楽天は、1年目に97敗。それでも初めての我がチームを東北のファンは我が子のように温かく応援し続けた。だが、そんなファンに対し、だからチームは強くなれないのだと言い続けた闘将。根っからの勝負師は、選手にもファンにもいつも厳しい言葉を投げかけていた。
だが一方で、被災地に多く足を運びエールを送り、人々を励まし続ける姿もたくさん目にしてきた。優しい笑顔で語りかける姿は、ベンチで見せる表情とはまったくの別物で、どんな状況下にあっても人々に寄り添っていた。
病気のことを2016年から知っていたという立花陽三球団社長はそんな姿を振り返る。
「被災地に対する思いは人一倍強い方だった。復興を願っていたし、それは普段からお話されていました。それを公の場で口にするような方ではなかったのですが、(献花に訪れる人の)この数を見ていると、しっかり伝わっていたのだなと、真の心がちゃんとファンには届いていたんだなと思います」
厳しい言葉の裏に優しさがたくさんあった星野仙一という男は、東北のファンに真の優しさと強さを植え付けた。そして野球ファンはもちろん、野球という枠を超えて、多くの笑顔と勇気を届けてきた。だからこそ、多くのファンが足を運んだのだ。これからできる闘将への恩返しは、優勝と復興へ強く進んでいくことだろう。
文=阿部ちはる 写真=BBM