星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。 いま編集部では、1月26日発売予定で星野さんの追悼号を制作している。その中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略) 近藤コーチから抑えの指名

千葉(左)と星野の実際の対談風景
いよいよVイヤーの1974年だ。今回は、26日に発売される追悼号にも掲載されている
千葉茂との「続・悪の道(特別編)へそ曲がり対談~老いぼれ
巨人の殺し方教えます」(『週刊ベースボール3月18日号』)を紹介する。ホストの千葉は巨人の伝説的二塁手で、「猛牛」の異名を取った男だ。
長いものなので、かいつまんで抜粋していく。なお、前提として、
王貞治、
長嶋茂雄のONを擁するV9巨人が絶対王者の時代であることを頭に入れてお読みいただきたい。
道楽息子の尻ぬぐいはやめた!
千葉 セーブはしかしどうなんだろう。セーブポイントのピッチャーというのは、完投能力がない人がなると……(この年からセーブ制度が日本球界にも導入された)。
星野 そんなことはないと思いますね、ぼくは。みなさんリリーフ専門で短いイニングを投げるのを楽に感ずるようですけどね。先発は3日か4日に一回でしょう。その間、完全に調整できますね。リリーフの場合は毎日毎日でしょ。で、いつ出ていくか分からないという。そういう精神状態、緊迫感がありますね。しかも、あとに引けない場面で出ていくわけでしょう。もちろん、肉体的なことは先発もきついだろうけど、精神的な疲労といったらもう、リリーフのほうがずっときついんです。
千葉 道楽息子の母親で、息子の尻ぬぐいということか。だから休まる暇がないわけだ。
星野 ええ、それで失敗すれば自分のところに即、責任がきますしね。しかも敗戦投手ということでまた、数字の上でも1敗が加算されます。セーブポイントというものは、いままで公式には認められなかったわけです。だからマスコミでも大きく評価されず、成績としては加算されない。失敗したら1敗がくわわって、給料にも響くんですから、合わないですよ。
千葉 うまいことやって当たり前ということだな。
星野 それでナイスピッチング、ナイスピッチングって、その場だけですね。先発の勝ったピッチャーは1日も2日も余韻が残っていますね。一方でセーブリリーフでいったピッチャーは、次の日はまた新たな気持ちでピンチに立ち向かわなきゃいかんというようなことでしょう。だから長持ちしないですね。
チャンピオンに勝つことのうれしさ
千葉
中日は、ジャイアンツというものに対して今年もいままでどおりいいわけで、そんなに神経を使うことはないでしょう。
星野 ジャイアンツは比較的……まあ、やりいいほうですね。チャンピオンを倒すということは、われわれにとって、ほかに勝つよりはいいことというか、うれしいことですからね。マスコミもパッと書いてくれますしね。
千葉 悪趣味じゃないな、いい趣味だな。今年はジャイアンツも多少反抗に出てきそうな気はするけどね。
星野 こっちはまあ、返り討ちにするくらいなものですけれど。
千葉 ジャイアンツはつまり、中日のときは気を抜いているのかもしれない。
星野 いや必死で来てます(笑)。王さんでも長嶋さんでもみんな、川上(哲治)さんも目をむいてますわ。うちのほうがもうリラックスしてやっとるんですよ。
千葉 ウォーリー(
与那嶺要監督)になってリラックスし出したんだな。
星野 いままで、あまりにもジャイアンツ、ジャイアンツと意識し過ぎましてね。コンプレックスみたいなところはみんなありましたね。何しろ何回も優勝したチームでしょ。
千葉 うん。
星野 ぼくらはその強いものに向かっていく。まあ、僕個人としては、強いものに向かっていくタイプですからね。弱いところとやるよりはよっぽどやりがいがあります。もうケンカ腰でいいんですよ(笑)。
千葉 悪党になればいいんだけれど、なかなかなれないんだよ。
星野 それはグラウンドだけ悪党になればいいんですよ。それ以上にジャイアンツのやつら、悪党ですからね(笑)。
ONには気持ちで向かっていく
千葉 グラウンドでジャイアンツをだます、だまし方というか、OVのだまし方は。
星野 別にだましとるわけじゃないですけどね。
千葉 だまされたこともあるだろうけども。
星野 若いときはよくだまされましたしね。その恨みがつのって、だましにかかっとるんですけどね。だから技術的なことよりやっぱり、ハートじゃないですか、ジャイアンツに勝つということは。技術的なことをいえば、王さんにはまともなボールをほうらない。そしていかにゆるい球を打たすかですね。ゆるい球ならヒットが精いっぱいでしょう。ホームランはまずないですからね。
千葉 ゆるいボールをほうったら、それだけ速いおそいの変化もつくということだな。
星野 王さんには打たれてもいいというふうな気持ちでほうれば、そう打たれないですね。長嶋さんにいま打たれたんじゃ、ちょっといかんですけれども。あの人にはやっぱり、ワンアウトもらうようなつもりでいかないと。
千葉 いまの長嶋なら王にくらべて怖さが一段落ちるだろう。
星野 そうですね。もう長嶋さんは去年くらいから衰えたというたら怒られるかもわからないけど。
千葉 年齢が年齢だからそういう気がするんだな。だが王はそうはいかんわけだ。そしてだますのか、ゆるい球で。
星野 もうゆるい球ばっかりでごまかしています。
千葉 腕で投げているというより、心理面でごまかしているということだな。
星野 ええ、ジャイアンツはもう、気持ちで向かっていったほうがいいですね。
千葉 だからなめてかかる、のんでかかるようにすればいいわけだ。
星野 ジャイアンツはデータ野球をしますね。だから逆にだましやすい場合も出てくるんです。よそのやつはぽんぽん、ぽんぽん打ってくるし。
千葉 ことしはむろん、優勝するつもりでしょう。
星野 やる以上はそうですよ。千葉さんがどこかの新聞で、またジャイアンツだとか何とかいっているのを読んで、これは文句をいってやらにゃいかんなと思っていたんですけどね。
千葉 いや、ぼくはいま、どこにしようかと思って(笑)、考えとる最中なんや。正式には発言してないよ(笑)。
<次回へ続く>
写真=BBM