
東洋大の153キロ右腕・梅津はリーグ戦未勝利ながら、2018年のドラフト上位候補だ)
気温10度以下にもかかわらず、東洋大ブルペンは熱気を帯びていた。昨秋、5勝を挙げて最優秀投手、ベストナインを受賞した151キロ右腕・
甲斐野央(4年・東洋大姫路)のすぐ横で、
梅津晃大(4年・仙台育英)のストレートが唸りを上げていた。打者の手元でホップするように低めに伸び、ミットにビシッと吸い込まれる。肌寒いこの時期でも140キロ中盤は、楽に出ていたに違いない。
梅津の最速は、昨夏のオープン戦で計測した153キロ。そして、衝撃を与えたのが、同秋の開幕カードの日大1回戦だった。劣勢の場面で神宮初登板。昨秋まで46年、チームを率いた高橋昭雄前監督から「試合の流れを変えてこい!!」と指示を受けると、いきなり初球に151キロをマークしている。
視察するネット裏のスカウトは、驚きの声を上げた。3年秋にリーグ戦デビューを遂げた「遅咲きの大器」。プロ関係者はそろって、2018年の対象選手としてメモ帳にペンを走らせた。
仙台育英秀光中では3年時に全国大会へ出場しているが、すでに1学年後輩・
佐藤世那(現
オリックス)が絶対的エースで、梅津は控え投手。仙台育英高では1学年上に、
馬場皐輔(仙台大を経て昨年のドラフト1位で
阪神入団)がいた。2年春のセンバツ甲子園でベンチ入りするも、登板なし。同秋からエースとなったが、3年夏の県大会1カ月前に死球による左手首骨折で、全治2カ月の診断を受けた。本来ならば「夏絶望」である。患部にテーピングを巻き、何とか間に合わせたものの、4回戦で敗退した。
「良き仲間、監督にも恵まれましたが、高校生時代は思い出したくない」
故郷・仙台を離れ、東洋大という厳しい環境に飛び込んだのも、東京で人生をかけるため。しかし、1年冬には「キャッチボールすらできない状態」と、耐え難い屈辱感を味わった。そんなとき、手を差し伸べてくれたのが、東洋大OBの
玉井信博投手コーチ(元
巨人ほか)。1年以上をかけ、二人三脚で基本からやり直し、復調のきっかけを作ってくれた。それでも3年春はチーム内競争に敗れ、戦力になれず、夏場は肉体改造に着手。体重10キロ増で球速も10キロアップし、秋の初登板につなげた。とはいえ、同秋は4試合で未勝利(0勝1敗)。終盤には右内転筋痛で離脱し、神宮大会ではメンバー入りを逃した。
その悔しさが、最終学年への原動力だ。年明けから2月のキャンプにかけ、継続してNPBスカウトが熱視線を送っているが「1勝もしていないのに……。まだ、取材していただく立場にもない」と控えめ。普段はおとなしい性格だが、「マウンドでは豹変する」と明かすのは東洋大・
中川圭太主将(4年・PL学園)だ。大学入学以降、梅津が誰よりも苦労し、努力を重ねてきた姿を身近で見てきたチームリーダーは、副将に梅津を指名した。
「信頼しています」(中川主将)
温厚な人柄で、思わず、応援したくなる選手。大器晩成型の梅津にはこの春、飛躍する要素がそろっている。
文=岡本朋祐 写真=川口洋邦