星野仙一さんは、いつも言っていた。「俺はベースボールの取材は断らん」。実際、ほとんど断られたことはない。恥ずかしい話だが、テレビ局などに比べれば、ウチのギャラなど雀の涙……。おそらく、球界にとっての専門誌の重要さを評価してくれていたのだと思う。そういった俯瞰(ふかん)した見方ができる方だった。 星野さんの追悼号制作の中で、たくさんの資料を見て、たくさんの方から話を聞いた。それがあまりに膨大なので、これから毎日になるか、数日に1回になるか分からないが、追悼号には入りきらなかった話を当時の『週べ』の記事の再録も交えながら紹介していきたい。(以下は敬称略) 「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」

2年目は我慢の1年となる
勝ちたい――。2011年3月に起きた東日本大震災で本拠地・仙台が被災。選手、首脳陣は東北に勝利を届けるために、強い思いとともにシーズンへと臨んだ。しかし、結果はリーグ5位……。
今回は翌12年春季キャンプ、星野監督にとって明大の後輩でもある解説者・
武田一浩との対談を抜粋しよう。
少しずつ手ごたえを感じつつも威勢のいい言葉はなく、最後、“我慢”という言葉を使っている。東北の春はまだ先だった……。
武田 ずばり昨年と今年、同じこの時期では一番何が違っていますか。
星野 去年は選手の個性、良いところも悪いところも熟知できていなかった。そこから1年間戦ってみて、すべてが足りないなと。ハングリーさもなければ、プロとしてまだまだ甘い。それが今年は少し、洗い流されてきたかなという感じはするね。
武田 期待できる部分が出てきたと。
星野 まだ少しだよ。デーブ(
大久保博元打撃コーチ)が来て、去年の秋からアーリーワークを導入した。秋にみんなヒーヒー言っていたのが、今年はロングティーをやってもバンバンサク越えするようになってきた。まだ力がついたとまではいかないけれども、体力はついてきた。体力がつけば、粘り強さや頑張ろうという気持ちが出てくる。ゲームでも結果がついてくれば、もっと欲も出てくるしな。とにかくウチは、現有戦力を底上げするしかない。選手を振るい落とすのではなく、引き上げていかないといけないんだよ。
武田 大きな補強はなかったですしね。
星野 選手にも言っているのは、アップル社のジョブスの言葉じゃないけれども、「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ(=ハングリーであれ、愚か者であれ)」と。まさしくウチに必要な部分だよ。
「歯がゆいよ。でも、これは俺の運命だから」
武田 昨年解説をさせていただく中で感じたのは、特に負けている試合で、明日につながるプレーをしようというよりも、沈みっぱなしというか。そこで監督ももっと怒るのかなと思っていたんですけど。
星野 いや、去年は見ていたんだよ。
武田 では、今年はガンガンと。
星野 多少はそういうつもりでいる。でも、まだまだ選手たちが反発してこない。クソ~とはならずにガクッとしてしまう。だから2、3年先を見てやっていかないといけない部分はある。選手たちは、もっともっと人間を勉強しないといけない。
武田 人間力ですね、島岡御大(吉郎氏、明大野球部元監督)いわく。おとなしい印象なのでしょうか。
星野 おとなしいんじゃなく、意気地がなかった。去年はね。それが今年は、意気地が出てきた。発破を掛けたら、グッと前に出てきだした。それと、コーチとの会話もできてきた。茶々を入れると言い返せるようにもなってきたし、野球の話以外も含めたコミュニケーションは非常に大事なことだからね。
武田 監督に話しかけてくるような選手も多くなればいいですよね。
星野 そうなればいいという半面、監督というのは怖くなくてはいけない、絶対に。顔を出したら雰囲気がピリッとするようじゃなきゃ。その中で選手がどんどんアピールしてきてくれないと。
武田 精神的な部分も大きいですか。
星野 そう思う。いままで確固たる練習をしてこなかったから。打ち込んでいない、走り込んでいない。だから、これだけやったというものをつくらないと。俺はいつもチャンスになると、「おいしいのが来たなあ、食えよ!」と選手に言っているんだけど、ご馳走を目の前にしても前菜しか食べてくれないんだよ。
武田 チャンスはたくさんつくっている印象はありますけどね。
星野 それを点にするのが、野球の難しさ、バッティングの難しさだけれども、一度おいしさを覚えれば、給料も上がる。プレッシャーはあるに決まっているから、それをどうやって乗り越えるか。そのためにはやり込んでいないと。でも、真面目なコが多いんだよ。
武田 みんな素質がある選手たちだと思うので、これから自信さえついてくれば面白いですよね。でも、まだまだ歯がゆさはあるのかと。今年は勝つことが求められるでしょうし。
星野 歯がゆいよ。この年になって、我慢するということを続けていかなくてはいけないわけだからね。まあ、これは俺の運命だから。でも、今年は選手たちに期待しているよ。
<次回へ続く>
写真=BBM