
開幕に照準を合わせる松坂
「若手じゃないんだから!」
チームメートからの突っ込みに、ウエート・ルームからドッと笑いが起きる。トビラ近くに立った
松坂大輔は苦笑しながら、部屋の中に入っていった。
中日の春季キャンプ中のワンシーンだ。入団テストに合格し、
ソフトバンクから加入した松坂。注目度は12球団の中でもトップクラスで、練習をしながら殺到する取材に対応する日々は多忙を極めていた。
記者がインタビューさせてもらったこの日も複数のメディアからの依頼に対応し、さらに球団の写真撮影なども終えると、時刻は午後4時過ぎに。ほかの選手がすでにグラウンドや陸上競技場での練習を終え、ウエート・トレーニングを行う中、ベテランの松坂もようやく合流。ベテランらしからぬスケジュールにかけられたのが冒頭の言葉だ。
キャンプが始まってすぐ、“中日の松坂”の違和感はなくなった。プロ野球人生をスタートさせた
西武と同じブルーのユニフォームだということもあるだろうが、それ以上に、ほかの選手と談笑しながら過ごす姿が、チームになじんでいたことも大きいだろう。
2月15日には年下の投手との食事会を開催。年上の
岩瀬仁紀や
山井大介も参加すると支払いをしてもらうことになるから、と配慮し、支払いは一人で負担した。
「(大野)雄大とタジ(
田島慎二)がまずは場を乱し、若い子たちが必死についていっていました(苦笑)。いや~、すごかったですね」
思い出しながら笑顔で語る表情は明るく、松坂自身もその時間を楽しんでいたことが察せられた。
3月4日、初めて登板したオープン戦(対
楽天、ナゴヤドーム)では2回2失点。初回は三者凡退に抑えたが、2回に
アマダーに2ランを許した。目標とする開幕先発ローテーション入りはまだ不透明。それでも、ここ数年とは違う姿を見せてくれそうな、ポジティブな雰囲気があることは間違いない。
「右肩の不安が完全にないわけではありませんが、例えばキャッチボールなどで、右肩に痛みがないように投げる、ということはしていない。そのストレスがないのが、明るく見える一番の要因じゃないでしょうか」
ペナントレース開幕まであと3週間。ナゴヤドームでチームを、ファンを笑顔にする投球を期待したい。
文=吉見淳司 写真=BBM