いよいよ始まった「第90回記念選抜高校野球大会」。週べONLINEでは歴代の名勝負をピックアップし、1日1試合ずつ紹介していく。 両エースの投げ合い

タイミングは際どかったが……
1980年4月6日決勝
高知商(高知)1-0帝京(東京)
決勝まで進んだ高知商のエースで四番は、大会No.1投手と言われ、水島新司氏の高校野球漫画の主人公と同じ名字だったことから「球道くん」の愛称で人気者になっていた
中西清起だった。
対するは、東京の強豪・帝京。エースは2年生だった
伊東昭光だ。中西は
阪神、伊東は
ヤクルトと、のちのドラフトで1位指名される右腕同士。当時からその能力は高く評価され、予想どおり序盤から息詰まる投手戦となった。
試合が決まったのは、0対0で突入した10回裏、高知商の攻撃だった。右手中指を突き指し、爪もはがしていたという先頭の七番・堀川潤が、痛みを感じながらも必死にバットを振り抜くと、レフト線を抜く二塁打に。その後、すかさず犠打で一死三塁とした。
続く九番・小島尚の打球は、レフト定位置より浅いフライ。普通なら自重するケースだが、帝京のレフト・江黒隆順が肩を痛めていたことを知っていた高知商の三塁コーチがGOサイン。堀川がタッチアップでホームに頭から突っ込んだ。際どいタイミングながら球審の手がすっと上がり、セーフ。高知商のサヨナラ勝ちだ。堀川はガッツポーズして飛び上がった。
ここまで力投を続けてきた伊東はグラウンドに頭を着け、号泣。一方で高知商の選手たちもうれし涙で堀川を囲み、抱き合った。
帝京打線を5安打に抑え、8三振を奪った中西は「僕だけが騒がれた。その僕を仲間は一生懸命もり立ててくれました。だから絶対に負けられん。抑えなければと思って投げました」。お立ち台でインタビューに応じながら、その頬には涙がいく筋も落ちていた。
高知商にとっては初優勝でもあった。
写真=BBM