
大谷の活躍で「二刀流」登録名新設も、条件をクリアするのが難しいルールに。それがクリアできるのはデビッドソンくらいか
3月14日、MLBで複数のルール変更について発表があった。私たちにとって興味深いのは二刀流ルールである。2020年から、ベンチ入り選手は従来の25人から26人と増え、選手はアクティブロースターに入る前に、投手か野手かどちらかを決める(シーズン途中に変えられない)。投手枠の上限(13人か?)も定められる。投手がさらに増えて、投手交代が増え、試合が長くなるのを防ぐためだ。
そして野手は、延長か、6点以上差がついた試合状況でしか登板できない。そんな中、二刀流と認定された選手は、試合状況に関係なく、今までどおりにプレーできる。20年に二刀流選手と認定されるには、19年シーズンか、20年シーズンに投手で20イニングを投げ、野手ないしはDHで20試合(最低3打席に立つ)に出なければならない。
ちなみに19年にそのルールが施行されるとしたら、開幕時に二刀流資格を得るのは昨季DHで81試合に3打席以上立ち、投手としては10試合、51回2/3を投げた
大谷翔平のみである。しかしながら彼も19年はDHのみだから、20年は一からのスタートになる。資格を得るために、開幕時は投手としての登録になる。
投手登録をした選手が打つ分には制限はないが、野手で登録すると上記のように登板機会が制限されるからだ。仮に大谷が18年シーズンのようにプレーしたとすると4月24日に投手で20イニング超え、5月18日にDHで20試合(最低3打席到達)で、二刀流認定は5月19日以降になる。こうなればエンゼルスは投手枠が一つ空くため、そこにまた投手を入れられアドバンテージとなる。
ルールの概要は以上のどおりだが、疑問点は、誰が大谷以外にこの基準を満たせるのかということだ。例えばエンゼルスにはケイレブ・カワート、ジャレッド・ウォルシュら二刀流候補生がいる。しかし、彼らが上記の条件を満たせるほど、メジャーの試合で起用してもらえるとは考えにくい。
期待はレンジャーズのマット・デビッドソンだった。18年にホワイトソックスで打者として20本塁打、62打点、投げては3試合3イニングを投げて無失点だった。レンジャーズは彼とマイナー契約を結びキャンプで二刀流テストを行った。結果は、打者としてなら将来性があるが、投手はそうではないというもの。
打者としての力を引き出すべく、マイナーに送り打撃練習に集中させる。本人はキャンプ序盤「大谷が二刀流の扉を開けてくれた。私は野手だが、もともと投げるのが好き。今季は登板回数を増やしてどれだけできるか試したい」と意欲的だったが、チームに命じられれば仕方がない。
二刀流の大物マイナー・リーガー、レイズのブレンダン・マッケイは今季チームの指示で一塁を守らない。より投打に集中するためだが、昨季の彼は1Aで打率.214。果たしてメジャーのDHで20試合も出してもらえるほど打撃力は向上するのか? この基準はハードルが高過ぎて、二刀流を育てようというチームの志気をくじく。
大谷の活躍で二刀流のトレンドが生まれかけたにもかかわらず、新ルールであっという間に芽を摘んでしまったかのように見えるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images