
3度目の登板で今季初勝利を手にした由規。勝負はここからだ
由規の今季初登板は4月1日の
DeNA戦(横浜)だった。4回3失点で黒星。初回から3四球と制球が定まらず、「緊張したけど、それだけでは済まない立ち上がり。何もできないまま終わってしまいました」。ガックリと肩を落とした。
一度登録を抹消され、2度目の先発は4月15日の
阪神戦(甲子園)。0対1と1点リードされた4回、簡単に二死としたが、鳥谷に左前安打を許すと、続く糸井には初球のストレートを中越え本塁打とされてしまう。結局、前回と同じ4回3失点でマウンドを降りた。「打たれてはいけない場面で打たれた。長い回を投げられなくて悔しいです」と唇をかんだ。
この不甲斐ない連敗について、由規は「開幕ローテーションを意識し過ぎたのかな」と振り返る。7年ぶりの開幕ローテ入りを、必要以上に重くとらえていた部分もあったという。カウントを悪くすると、「四球を出しちゃいけない」。そんな思いが自身を縛りつけた。そして、結果的に置きにいった甘い球を痛打される悪循環。「いろいろなことを考えてしまい、打者と勝負できていない。周りから見たら、どこか自信なさげなピッチングだったと思います」。
「次に結果を残さなければ、もうチャンスは来ない」。3度目の登板となった4月22日のDeNA戦(神宮)には、開き直りに似た心境で臨んだという。その結果、7回途中1安打無失点の好投を見せ、ようやく今季初勝利をつかんだ。「短期間で技術がグンと上がるわけでもない。打たれてもいいからガムシャラに腕を振ろうと。もちろん、走者が出たら慎重になりましたし、間を取る余裕もありました」。
普段は目に触れることのない、グラブの内部には『感謝』の二文字が刺しゅうされている。「やっぱりケガをして何年も一軍で投げられない時期もありましたし、今投げられる喜びを忘れてはいけないと思うんです。(復帰へ)協力してくれた方、応援してくれた方がたくさんいるので。その恩返しという意味でも、この『感謝』という言葉を大事にしています」。
グラブにはこの二文字とともに、四つ葉のクローバーも刺しゅうされている。『ももいろクローバーZ』のファンであるのが理由の一つだが、もう一つ、「幸せを運ぶ」との意味を大切にしているという。まずは自分自身の力を信じること。そして、周りの手助けや声援を力に変えて、由規はマウンドへと向かう。
文=富田 庸 写真=井田新輔