プロの世界で鈴木に勝つ！

　今年ドラフト解禁を迎える大卒2年目の社会人選手はエンゼルス・大谷翔平と同世代である。NPBの同年代におけるもう一人の代表格と言えば、広島・鈴木誠也だ。

　高卒で入団した鈴木に強烈なライバル心を持っているのがHonda鈴鹿・松本桃太郎内野手（仙台大）である。

「鈴木誠也は荒川シニア。中学時代（松本は札幌新琴似シニア）、全国大会で2度、対戦しています（当時、鈴木は投手）。春は1本、夏は2本のヒットを打ちました。いずれはプロの世界で、彼に勝ちたいと思います」

　ドラフト候補選手をインタビューする際、必ず「印象に残っている試合は？」という質問をする。意外なエピソードが出てくる可能性があるからだ。多くの選手は高校、大学、または直近のシーンを語るケースが多いが、松本は「中学3年夏の全国大会決勝」と答えた。

「同点で迎えた（最終回の）7回裏二死満塁、フルカウント。ラストボールは、高めに大きく抜けたボール球です。勝った……と思ったら……。『俺が決めてやる！』と気負ってしまったのか、チームメートは空振り（三振）。（延長の）8回表に勝ち越されてしまい、その裏、自分が最後の打者でした。1球の怖さを知った試合です」

悔しさをバネに「絶対プロへ」

　個性派である。Honda鈴鹿ではムードメーカー。松本が出場すると、ベンチは自然と盛り上がるという。その屈託のない人柄は、誰かとかぶる。ソフトバンク・柳田悠岐だ。

　柳田が広島商高から広島経大へ進学するまでの約半年間、ウエート・トレーニング等で肉体改造をしたのは、あまりにも有名なエピソード。松本が北海高から仙台大への進学を志望した理由も、柳田とほぼ一緒だった。

「仙台大には体育学科がある。トレーニング施設が整い、学問としても知識を深められる、と。体を大きくしたいと思いました」

　入学時67キロ（175センチ）だった体重が最大95キロまでアップ。「でも、さすがに体が動かなくて……」と、最終的には87キロにまで絞り込んでいる。仙台六大学リーグではリーグ記録を更新する120安打を放ち、打率.365、18本塁打、82打点と他を圧倒。2度のMVP、5度のベストナイン、首位打者3度、最多本塁打4度、最多打点2度と個人タイトルも総なめにした。

　柳田も広島六大学リーグで118安打を放ち、打率.428、8本塁打、60打点と圧巻の数字。MVP1度、首位打者4度（打率4割以上は実働7シーズンで5度）、6度のベストナインと規格外の成績を残している。

　高校は北海高、広島商高という古豪出身。柳田は大学時代、3度の大学選手権に出場しているが、通算13打数2安打。松本も2度の大学選手権で、柳田に歩調を合わせたかのように13打数2安打と全国の洗礼を浴びている。

　唯一、異なるのは、松本は仙台大4年時にプロ志望届を提出したが、無念の指名漏れの屈辱を味わったこと。悔しさをバネに、社会人では1年目から「三番・DH」を任され、今年は本来のポジションであるサードを守り「絶対にプロへ行く」と、意気込みは相当である。

「柳田さん？　別格ですよ!!　大好きです。最終的には、柳田さんのような選手になりたいです。あとは、オリックス・吉田正尚さんのフルスイングも魅力的です!!」

　右足を大きく上げる一本足打法だ。

「タイミングをうまく取れる人ならいいですが、自分は……。テークバックを取り、バットを振り下ろした後は体に任せる。考えたら、ダメです（苦笑）」

　なかなか言葉にするのも難しいほど、感性を大事にした打ち方なのである。

　一度聞けば、記憶から離れない「桃太郎」。チーム内でのニックネームも「ももたろう」として親しまれている。名前の由来はこうだ。

「信頼できる仲間をたくさん作って、正義感のある、心の強い人に」

　1球を大切にする社会人屈指のスラッガー・松本。多くの人に夢を与えるだけのポテンシャルと、キャラクターを持ち合わせている。まさに、プロ向きだ。

文＝岡本朋祐　写真＝田中慎一郎