バースさんとの対戦成績を見ると……

バースさんは力と技を兼ね備えた人だった
この間、元
巨人の
クロマティに会ったんだ。
陽気な人だから、みんなと「イエーイ、イエーイ」とハイタッチしてね。俺もハイタッチをしようとしたんだけど、突然、仏頂面になって「NO!」って。すぐ笑ったから、もちろん冗談だけど、嫌われる理由はあった。まあ、昔話だけどね。
最初に書いておくけど、今回は長くなりそうなので、前後編にするよ。
テーマは、クロマティと
阪神のバースさん。う~ん、なんだか分からんが、俺の中で、外国人選手はバースだけ“さん”がつくんだ。なんとなく雰囲気でね。
では、まずそのバースさんから。1980年代というより、史上最強の外国人バッター、
ランディ・バースのことさ。83年から88年まで阪神に在籍した左バッターで、85、86年は2年連続三冠王。しかも85年が130試合制で54本塁打(出場は126試合)、86年が日本最高打率の.389。ほんとすごかった。
ただ、左対左もあって、俺はそれなりに抑えた。ウソだと思われたくないから対戦成績を出しておこう。もちろん、俺が控えていたわけじゃないよ。編集部に調べてもらった数字さ
1983年 9打数2安打、0本塁打、2奪三振、打率.222
1984年 14打数3安打、0本塁打、5奪三振、打率.214
1985年 21打数6安打、2本塁打、7奪三振、打率.292
1986年 25打数5安打、0本塁打、8奪三振、打率.200
1987年 17打数4安打、2本塁打、1奪三振、打率.235
1988年 5打数4安打、0本塁打、0奪三振、打率.800
阪神日本一で大フィーバーだった85年は打ち込まれているけど、ほかはそんなに悪い数字じゃない。バースさんが途中退団した88年はなんだろうね、まあ、去りゆくバースさんへのプレゼントかな。失礼、負け惜しみです。
相手の挑発には絶対乗らないバッター
いまもそうだけど、80年代、外国人打者が日本で成功する条件は「ボール球を振らないこと」だった。日本球界ではまだウエート・トレが重視されておらず、日本人選手と外国人選手のパワーの差はいま以上にあったけど、いま以上に粗っぽい選手が多かった。
ボール球に手を出してクルクル空振りし、甘い球だけドカンとドでかいホームランを打つタイプ。一瞬目立つけど長続きしない選手だね。日本人投手は制球がよく、変化球も多いから、真っすぐに強いだけじゃ活躍はできないんだ。
バースさんは選球眼がよく、相手の挑発には絶対乗らないバッターだった。いまでもピッチャーがボール臭い球ばかり投げているのに、手を出して凡退するタイプがいるでしょ。イライラしているときの
ヤクルト・
バレンティンがそうだよね。あれだけカッカしてくれたら投手は楽さ。バースさんは投手が勝負してこないなら、「そうですか、歩こう」。勝負してきたら、「そうですか、打とう」みたいな雰囲気があった。
バットコントロールもうまくて、どの方向にもホームランを打てたけど、その気になれば、とてつもなく大きなホームランを打てるパワーもあった。俺が目撃したのは、ライトスタンドの一番上の通路の入り口あたりまで飛ばした一打。チームメート、
川端順のパームボールだった。140メートル以上かな。当時から甲子園はボールが飛ばない球場だからびっくりした。いまもスタンド上段へのホームランなんて、まずないだろ。
対戦していて、ミスタータイガース・
掛布雅之さんとバースさんのホームランというのは、阪神ファンの心の拠り所みたいなものかなと思っていた。甲子園の沸き方が違ったからね。85年以外、阪神はパッとしない時期だったしな。
バースさんとの対戦で、俺が一番気にしたのが風だった、そう甲子園名物浜風さ。
<続く。次回6月6日水曜公開予定>
写真=BBM