ヘッドコーチのつらい役割

2007年から4年間、原監督とタッグを組んだ
ヘッドコーチの仕事として、選手に二軍降格を告げることがある。チームによって違うかもしれないが、私が
巨人でヘッドコーチを務めていたときはそうだった。
非常につらいことだが、よく覚えていることがある。ある試合で、終盤に点差がついてガッツ(
小笠原道大)をベンチに下げて、代わりに
円谷英俊をグラウンドへ送り出した(2009年8月18日、横浜戦=東京ドーム)。円谷は07年に大学・社会人ドラフト4巡目で青学大からプロ入りして3年目だったが、この試合で見事にプロ初安打となる3ランを放った。
ベンチで「ツブ、よくやった」と心の中で思っていたが、ゲームの途中で
原辰徳監督が「ヘッド、投手コーチがどうしても投手が必要だ、と言っています。誰を落とします?」と聞いてきた。でも、野手で落とすべき選手が見当たらない。となると、必然的に実績が最も少ない円谷となってしまった。
試合後、マネジャーを通じて円谷を部屋に呼んでもらった。もちろん、顔には満面の笑みが浮かんでいる。その顔を見ながら、「ツブ、今日はナイスホームラン。でも、悪いんだけど……」と言ったら、サーッと顔色が変わっていった。
円谷がその年、結婚したばかりだったことも知っていた。だから、家で待っている奥さんのことも考えたら……。あれは本当に忘れられない出来事だった。
監督を孤独させてはいけない
監督は孤独だ。チームの調子がいいときは、周囲もチヤホヤしてくれるが一転、不調に陥ると腫れ物に触るような扱いをされる。それはコーチも同様だ。勝利から見放され続けると、自然と監督から離れていき、監督は一人になってしまう。
そんなときでも、ヘッドコーチは常に監督に寄り添っていなければいけない。監督の苦悩をともに分かち合うようにしなければ、ヘッドコーチとしては失格だ。
言うなれば、監督とヘッドコーチの関係は夫婦のようなものなのかもしれない。例えば、監督がチームや選手に言いたいことがありそうなら、それを察して、先回りしてヘッドコーチが指摘することも重要だ。
その逆で、監督がつい選手などに怒りの言葉を発した際は、それをうまくフォローするのはヘッドコーチの役割になる。それは本当に夫婦関係のようなものだろう。
とにかく、監督とヘッドコーチがうまくいっていないチームはいい成績を収めることができないのは確かだ。
写真=BBM