長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。 「彼の挑戦する姿勢を尊敬する」

江川から7試合連続本塁打となる22号アーチを放ったバース
「グレート!」
エキサイティングな試合後、
阪神の
ランディ・バースはこう叫んだ。
1986年6月26日、後楽園球場での
巨人12回戦。8回、バースは巨人の先発・
江川卓から右翼場外へ勝ち越しの22号本塁打を放った。6月18日、
ヤクルト11回戦(甲子園)で
高野光から16号を放って以来、7試合連続の本塁打。巨人・
王貞治(86年当時、巨人監督)が72年にマークしたセ・リーグ記録と日本記録に並んだのだ。
おまけに、その打球は推定150メートルの後楽園球場最長本塁打。これまた王が64年、国鉄・
金田正一から打った最長弾に肩を並べたことになる。そしてもう一つ、これが阪神選手の対巨人通算800号アーチでもあった。
だが、バースの「グレート!」は、そんなメモリアル弾を放った自分自身を称賛したものではなかった。称えた相手は、ホームランを打った相手の江川。
「江川はまったく逃げずに、どんどん攻めてきた。僕は、彼の挑戦する姿勢を尊敬する」
実のところ、バースはこの試合まで、江川を苦手にしていた。来日4年目で、通算51打数10安打、打率は.196。本塁打となると、入団1年目の83年に甲子園で打った1本きりだった。
だから江川も“逃げなかった”といえるのだろうが、この日も初めの4打席はことごとく得意の“読み”を外され、タイミングを狂わされていた。仕方がないので(?)無心で打った結果が、会心の当たりになったのだ。
翌27日(ヤクルト戦)、バースは56年、デール・ロング(パイレーツ)が作った8試合連続の「世界記録」に挑戦したが、6打席とも本塁打はなかった。
写真=BBM