FA問題では選手会と対峙するマンフレッドコミッショナーだが、データ支配野球では意見が一致している
7月17日、オールスター・ゲームの日、恒例行事として、全米野球記者協会の昼食会に選手会のトニー・クラーク代表とロブ・マンフレッドMLBコミッショナーが、別々に招かれ質疑応答に応じた。
今回、顕著だったのは両者の意見の相違だった。昨シーズンのオフ、多くのFA選手がなかなか契約できなかったことについて、クラーク代表は球団の共謀をほのめかし「FA制度に対する直接的な攻撃。われわれの経済システムの基盤であり、これが続くなら難しい決断を迫られるかもしれない」とストライキの可能性にも言及し「選手の権利が侵されているなら、歴史的に見て、そういった事態になるかも」と話した。
対照的にマンフレッドコミッショナーは「球団のフロントが賢明な判断を下しただけ。実際、FA選手の今季のプレーぶりが証明している」とし、共謀を全否定。さらに「各球団が注意深くFA選手を分析し、価値を個別にはじき出しただけ。賢明な判断であり、FA市場はそうあるべき」と反論した。
現行のCBA(労使協定)は2016年末に合意したが、ぜい沢税のペナルティを厳しくするなど、FA市場活性化にマイナスになる要素が含まれていた。ゆえにクラーク代表の交渉力にがっかりした代理人は少なくなかったのだが、昨オフの市場の停滞でさらに減点。クラークは今後巻き返しを図り、選手会での求心力を回復せねばならないが、現時点ではマンフレッド相手に苦戦が続いている。
クラーク代表はDH制度をナ・リーグにも導入するアイデアについても「選手の間で賛成者が増えている」と明言したが、マンフレッドコミッショナーは「すぐにそうはならない。おそらく現状のままだ。ナ・リーグがDHを採用したら、ナ・リーグならではのプレースタイルが絶滅する。それに躊躇するオーナーたちがいる」と否定していた。
そんな2人だが、同じ考え方だったのは、データがコントロールしている現在のMLBの野球について。果たしてこのままで良いのかと問題意識を持っていることだった。クラーク代表は現場のコーチや選手の声として、野球の戦い方がフロントからの情報に支配され、フィールド上で人間同士が戦術を駆使してしのぎを削るものでなくなっているということだった。
監督、コーチは役割が変わり、選手も頭で考えるのでなく、データに動かされている。マンフレッドコミッショナーも「オーガニック(本質的)な変更」が起こっていると切り出し、データによって守備シフトが敷かれ、ブルペンが次々につぎ込まれ、戦い方が変わったと例を挙げる。「われわれと選手サイドは、そういったオーガニックな変更が本当に野球にとって必要なのかどうか、しっかり話し合っていかねばならない」という。
そのマンフレッドコミッショナーは近年ペースオブプレーを訴えているがピッチクロック導入など、選手会の反発を受けてきた。選手会も再建の名のもとに意図的に高額のFA補強をしようとしない球団を批判しているが、コミッショナーは“長期的なプランであり地元ファンの理解は得られている”と取り合わない。
だが、この野球とデータという問題についてはほぼ同じ場所にいるようだ。今後どういった議論になるのか興味深い。