
母校であり自身の原点である秋田商高を訪れた成田
2017年の12月末。
ロッテの若き左腕・
成田翔は故郷である秋田へ戻り、英気を養いながら来る18年の新シーズンへ向けトレーニングを続けていた。
その成田を訪ねて母校である秋田商高へ赴いたのは北日本を襲っていた大寒波と大寒波の間。野球部のグラウンドは雪に覆われていたとはいえ、想像していたほどの寒さではなかった。にもかかわらず、なぜか成田だけは「寒い、寒い」と震えている。
ロッテに入団し、浦和の選手寮に居を移してから2年。「もうすっかり、向こう(千葉や浦和)に慣れちゃいました」と笑うが、中学時代までは軟式でプレーしていた成田にとって、秋田商高が文字どおりの“原点”であることに変わりはない。
雪が積もったグラウンドでは長靴を履いた野球部の選手たちが、何度も足を滑らせながらダッシュを繰り返している。「(秋田商高の先輩である
ヤクルトの)石川(雅規)さんの時代からやっていたはずです」という伝統の長靴ダッシュ。ダッシュだけではない。長距離走も長靴着用で走る。
グラウンドでプレーができない冬場。成田はとにかく走った。「普通の道を走るより、やっぱり下半身にきます」という長靴での走り込み。そして、「サイズがない分、1年生のときから徹底的に下半身を鍛えた」というトレーニングが成田の強靭な下半身を作り上げ、代名詞であるヒールアップからの投球フォームを実現させた。
しかし、プロ1年目の16年シーズンはヒールアップを封印していた。フォームの安定と制球を重視するがゆえだったが、持ち味であるストレートの伸びを欠いてしまったことも事実だった。決意の2年目。春のキャンプで再びヒールアップするフォームへと戻す。継続してきた下半身のさらなる強化のたまものだが、「ストレートの質は上がった」と成田自身も手応えをつかむことができていた。
17年はファームで先発ローテの軸として回ると、後半戦に入って一軍に呼ばれプロ初登板、初先発を経験。2度の先発で白星をつかむには至らなかったが、勝負の3年目に向け確かなステップとなる1年だった。
プロフィールでは170センチ、70キロ。プロの選手としてはひと際、小柄な部類に入る。しかし、間近で見る成田を「小さい」とは感じない。北国出身らしい色白で整った顔が乗る体は厚く、たくましいからだ。「まずは1勝」と意気込む18年。小さな左腕が見せるヒールアップからのダイナミックなフォームは、さらに大きなものとなるはずだ。
文=杉浦多夢 写真=小山真司