読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は打撃編。回答者は現役時代に巧打の選手として活躍した、元ソフトバンクの柴原洋氏だ。 Q.2018年はパ・リーグに西武の山川穂高選手、セ・リーグに巨人の岡本和真選手と、若い長距離砲がホームランを量産しました。なぜ彼らは大きな当たりを打つことができるのですか? 技術的な特徴も教えてください。(東京都・15歳)
A.山川選手はヒジ、ワキの使い方が格段に良くなりました。岡本選手はスイングがコンパクトになり確率がアップ

イラスト=横山英史
山川選手の場合は、ヒジの使い方に2017年までとの決定的な違いが見られました。打ちに出る際にヒジをグッと内側に絞ることによってどんなボールに対しても右ワキ、左ワキともに開かなくなったのです。もともと下半身のパワーはある選手でしたが、その土台とワキが開かないため、仮に緩い変化球で泳がされそうになったとしても、簡単に空振りすることはなく、ギリギリまで我慢して、前でさばくことができます。
このときにワキが開いてしまったり、抜けてしまうと打球はゴロになるのですが、18年の山川選手はしっかりと閉じて対応していますからね。しかも、このようなケースでは踏み込んでいっているわけですから、勢いがつき、芯に当たればスタンドインです。以前より前さばきのタイプではありましたが、さらに緩急で“抜かれた”ような場合でもしっかりと芯でとらえられる確率が上がりました。これが山川選手のホームラン量産の理由ではないでしょうか。
ちなみに、ワキを閉じてスイングできる利点は泳がされたときのみではありません。逆に少し差し込まれたとしても、ワキが閉じていれば押し出すことができます。特に山川選手のような力のある選手は(手前まで引きつけて打つタイプではありませんが)、窮屈になってもそこからの長打が期待できますね。実際にこのようなパターンでもスタンドに運んだのは1度や2度ではないはずです。日々の練習で両ヒジの使い方、ワキを閉じることの効果に気付き、身に付けたのでしょう。
一方、岡本選手はスイングがコンパクトになったことがホームラン量産の最大の理由でしょう。コンパクトにして長打? と思う方もいるかもしれませんが、17年まではバットを出していく際に後ろが大きく、遠回りして出てきていました。大きいのを狙い、大きいスイングで打とうとしていたわけです。つまり、時間的にもスイングにもロスが大きい。それではボールを見る時間的な余裕がなく、速いボールには差し込まれ、抜かれれば泳がされと不安定でした。
ところが18年はトップを作ったところからバットが遠回りをせず、肩口から最短距離でボールへとコンタクトすることができるようになっていました。芯を食う確率は各段に上がり、もともと力はあるのでその分、コンパクトにしても飛距離が出るのです。
●柴原洋(しばはら・ひろし)
1974年5月23日生まれ。福岡県出身。北九州高から九州共立大を経て97年ドラフト3位でダイエー(現ソフトバンク)入団。11年現役引退。現役生活15年の通算成績は1452試合出場、打率.282、54本塁打、463打点、85盗塁。
写真=Getty Images