
丸の人的補償で若手ではなく、ベテランの長野(写真)を獲得した広島。この戦略が成功して4連覇を遂げることができるか
FAで広島から
巨人に移った
丸佳浩外野手の人的補償選手が
長野久義外野手に決まった。プロテクトをしていなかった巨人にも、FAの人的補償選手には若手選手を指名するというこれまでの方針を翻した広島にも、2度ビックリだ。
巨人がこの生え抜きベテラン選手をプロテクトから外したのは、何が何でもチームの新陳代謝を進めていこうという強い決意の表れなのか。それとも広島がベテランを指名してくることはよもやあるまいと読んだか、あるいはその両方か……。まあ実際のところは分からないが、単に戦力面の視点からだけ見たときには、この「FAで得た選手と同ポジションのベテラン選手をプロテクトから外してしまう」というやり方は、チームの新陳代謝を進めるには、強引ではあるが、かなり効果的な方法だ。今回のケースの場合、丸と長野の年齢差は5歳。例えば2人がまったく同クラスの選手と仮定した場合でも、理論上はこれだけで巨人はこのポジションについて5年分のチーム若返りに成功したことになる。
まあもちろん、選手は将棋の駒ではないので、ベテラン選手が流出することによるチーム内の動揺とか、ファンの反感とか、そういうマイナス要素も生まれてくることは覚悟しなければならないが……。
一方の広島。過去、
新井貴浩が
阪神に移るときには
赤松真人を、
大竹寛が巨人に移るときには
一岡竜司を人的補償選手に指名し、いずれも一軍戦力として育てた実績がある。その例からして、今回も若手の投手あたりが候補では……、とこちらは勝手に想像していたが、これはちょっと過去の印象にこちらが引きずられ過ぎていたようだ。
こちらのほうは、察するに、若手獲得の方針を持っていたが、若手有望株はガッチリとプロテクトされてしまっていたのか、あくまで今季の戦力を優先させる方針になったか、あるいはその両方のバランスを見ての判断か……。「(チームの方針はあくまで)育成でいってほしいという人もいるが、4連覇の期待にも応えないといけない」という松田元オーナーの発言からすると、育成をベースに考えるチームの方針はあるけれども、4連覇のかかるシーズンでもあるので、今回は長期的展望を捨てても現実路線をとり、今季の戦力を優先に考えた、というところだろうか。まあ確かに、4連覇を狙えるチャンスなどそうあるわけではないので、ここは将来よりも現実を見る、という判断も不思議ではない。
実際、長野の獲得で、広島にとってもっとも懸念された今季の三番打者とレフトのポジション(
野間峻祥がレフトからセンターに回る見込み)については、かなり目途が立つことにはなるだろう。長野と、外野コンバートが本格化する
西川龍馬のレフトのポジション争いの勝者が三番にハマればベスト、左右のツープラトーンでの起用という方法もある。あるいは
バティスタをレフトに起用して打順を操作してもよく、「レフトに人がいなくて打線にポッカリ穴が空きました」という事態は招かなくて済みそうだ。万一、野間が故障や不調の場合でも、センター長野という起用も可能になる。これからキャンプ、オープン戦と、どうチームづくりがされていくのかは、楽しみなところだ。また、広島としては、これまで新井が担っていた「ベテラン選手の周囲への影響力」の部分でも長野には期待しているようだ。
果たして長野の獲得はカープのチーム内にどのような化学変化を起こすのか。もちろん単純にどこかで成否の結論が出る性質のものでもないが、とりあえず長期的展望を捨てても今季の戦力の拡充を優先した広島としては、今季の結果で巨人に負けるわけにはいかないところだろう。くしくも今季の開幕戦は広島と巨人の激突。因縁の対決で幕を開けるシーズンが、今から待ち遠しい。
文=藤本泰祐 写真=BBM