昨年、創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 8時半の男はなぜすごい
今回は『1965年9月6日号』。定価は50円だ。
1965年8月20日現在、パの打撃3部門のトップ2は、打率が南海・
野村克也.334、阪急・
スペンサー.324、本塁打がスペンサー33、野村29、打点が野村83、スペンサー63となっている。
この戦いの中で、東京の
小山正明が8月15日の試合でスペンサー相手に4四球、しかも1球もストライクを投げなかった。
試合後、小山は「スペンサーの後の打者が弱いから、あえて危険を冒して勝負する手はない」と語ったが、記者がさらに質問すると、ついに本音を話した。
「はっきり言ってスペンサーは日本人をバカにしたような態度をとる。どうだ、わしは怖いだろうというようなゼスチャーをするんだ。だからこっちもあんな奴に打たせるものかと歩かせたんだ。同じ外人でもハドリのような謙虚な人もいる。だから一口に外人がきらいだというわけではないが、スペンサーは虫が好かん」
一方、スペンサーは「小山は腰抜けだ」と試合後、大荒れだった。
セでは打率トップの巨人・王貞治がやや落ち気味で.330となったところで、
中日・
江藤慎一が.329と迫っている。
江藤は言う。
「王はいま確かにフォームを崩している。タイミングが狂っているようだ。王が三冠王を意識しているかどうかは知らんが、意識したら打てなくなる。僕も意識しないで打つ。結果がどうなるか分からんが」
また、巨人の抑え、
宮田征典の異名「8時半の男」はすっかり定着。武器は低めへの制球力と投球のインターバルの長さと言われる。大洋の
近藤和彦は「じらして投げてくるのが嫌だ。僕は短気だからボックスに入って待っているうちにじれったくなってしまう」と話していた。
この宮田からサヨナラ本塁打を放った
広島・
興津立雄に話を聞いても、褒め言葉ばかり出てくる。
「バッターを自分のペースに引き込んで料理する。敵ながらほれぼれするくらいいいピッチャーだ。サヨナラのときは外角にヤマを張ったらそこに来ただけ。そうでなくては打てない。それほど威力があるように見えなくてもストレートに伸びがあるし、落ちる球がいい。だから追い込まれたら打てない。とにかく向こうのペースにはまらないよう先制をかけることだ」
メジャーではSFジャイアンツで左腕の
村上雅則が活躍中。8月15日には「村上デー」として試合前にキッコーマン醤油から村上にオープンカーが贈られ、試合も先発をした。
なお、活躍とともにオフに南海とSFジャイアンツで大もめとなった契約問題が起こるのでは、とささやかれ始めていた。村上自身は残りたいと思っていたようだが、日本では父親の清さんがかなり強硬な“帰国派”だった。
「今年は向こう、来年は南海と約束があります。ジャイアンツが雅則を引き留めるとは思いませんが、そんなことになれば私は鶴岡さん(一人監督)とアメリカに行って、連れ戻してきます!」
では、また月曜に。
<次回に続く>
写真=BBM