
2013年、開幕24連勝を果たした田中
田中将大(ヤンキース)が2013年に
楽天でマークしたシーズン24勝無敗は、当時誰が本当に実現すると思っていただろうか。楽天のドラフト3位ルーキー・
引地秀一郎(倉敷商高)もまた、疑っていたひとりである。
「小さいころからシーズン無敗は、できないことだと思っていた。だが田中さんがやって、自分もやりたいと思った」
引地が田中を見たのは田中擁する駒大苫小牧高と
斎藤佑樹(現
日本ハム)擁する早実が死闘を繰り広げた06年の甲子園からだ。気迫あふれるピッチングにあこがれ、その後も動画サイトなどで田中の映像をずっと見てきたという。そんなあこがれの投手に対面する日がやってきた。
楽天では毎年、新人合同自主トレの一環で田中が特別講義を行う。「あこがれてきた選手を実際に見ることができて感動しました」と興奮気味に振り返ったその講義では、ひとつずつ質問できる時間が与えられた。引地が「24連勝はどうやったらできますか?」と問いかけると、こう返ってきた。
「試合の流れをよく分かった上で要所を締めて、その日その日のベストを尽くすこと」
いつもベストな状態でマウンドに上がれるわけではない。だからこそ、その日できることに全力を尽くすことが重要なのだ。「これまでは調子が悪いときにも無理して抑えようとしてしまう部分があった。調子が悪くてもその日のベストを探して投げることが大事」と感銘を受けた引地。「今日言われたことがすべて。忘れずにやっていきたい」と目を輝かせた。
田中は「僕が思うことを言っただけです。毎年オファーをしていただいているので、何か協力できることがあれば」と後輩たちにエールを送り、ルーキーたちの胸にはそれぞれ金言が刻まれた。
入団会見時、「田中投手は24連勝なので、目標は開幕25連勝」と大きな目標を語った引地は、世界で活躍する大きな背中を追いかけるようにプロでの活躍を誓った。
文=阿部ちはる 写真=BBM