信用してくれた監督に感謝

4月25日のロッテ戦(ZOZOマリン)でプロ初安打が決勝打となった愛斗
想い続けて4シーズン目。ノドから手が出るほど欲しかった待望の“1本”がプロ15打席目でついに出た。
2019年4月25日のロッテ戦(ZOZOマリン)、8回に代走で出場した
西武の愛斗に同点で迎えた10回表、二死一塁の場面で打席が巡ってきた。
だが、一瞬、嫌な予感が頭の中をよぎる。19日の
ソフトバンク戦(メットライフ)でのことだ。8回の守備からグラウンドに立ち、0対2のビハインドで迎えた9回裏、二死一、二塁で打順となったが、代打起用を告げられる苦杯をなめた。その試合後、ロッカールームに引き揚げる際、
辻発彦監督と偶然タイミングが重なり、「あそこで代打を出されないようにならないとな」と発破をかけられた悔しさは、鮮明に胸に刻まれている。その日以来の試合出場である。「もしかして、また……」。否応にも、そのときのことが頭に浮かんできた。
しかし、それは杞憂に終わった。打席に向かいながら、チャンスの場面で自分を信じてくれた監督に感謝し、「絶対に次につなごう」と集中力を高めると、
唐川侑己の投じた5球目だった。116キロのカーブに体勢を崩しながらも三塁線に引っ張り、プロ初安打を記録した。さらに、この二塁打で一塁走者がホームにかえり、初打点も同時に記録。加えて、チームの勝ち越し決勝点という殊勲打にもなる最高のメモリアル安打となった。
意図ある安打を自らに課して

プロ初安打は体勢を崩しながら打球が三塁線を破った
思えば2017年6月16日
中日戦(ナゴヤドーム)でのプロ初打席から、屈辱ばかりを味わってきた。一昨年、昨年と、それぞれ1試合ずつスタメン起用という大チャンスをもらったが、いずれも生かせず、程なくファーム行きとなった。特に昨季は、わずか3日間、2試合、3打席で二軍落ち。その後も、一度も一軍昇格の声はかからなかった。
自分がみすみす飛躍の機会を逸していく一方で、何人もの同世代の若手選手が『初安打』『初本塁打』『初打点』などを記録し、ヒーローに輝いていった。そのサクセスストーリーを忸怩たる思いで見ながらも、「ワンチャンスをモノにする勝負強さが、その後の自分の立場をいかに変えるか」ということを思い知らされた。
と同時に、「たまたまヒットが出た、というだけでは生き残っていけるほど甘い世界ではない」ということも痛感。だからこそ、今季は「チャンスをもらったら、その1球で仕留める打撃」と、「目の前の結果だけを求めるのではなく、しっかりと考えて、きちんと意図のあるヒット」を自らに課し、ここまで取り組んできた。
成長したメンタル面
失敗を繰り返してきた中で、最も成長したと自負しているのが「メンタル面」だ。「早く1本を」と、はやる気持ちが心にあり続けていたことは否めないが、それでも、今年はあらためてこれまでの自らの野球人生と向き合い、「成功するのが遅い」という傾向を真摯に受け入れた。
「何回もチャンスをもらっては、それをつぶしていく。でも、結果が出せず、そこで終わるのか? といえば、そうではなくて、『じゃあ次、どうしよう』と考え、その結果、成長し、認められてきたのが自分」
ある意味、欠点を「武器」だと視点を変えることで、焦りを封印することに成功した。今季も、初めて開幕一軍入りを果たしたものの、なかなか出場機会がなく、代打の1打席でのアピールに苦戦を強いられてきたが、決して気持ちを切らすことはなかった。「大事なのは、目先の1本よりも、未来につながる内容ある打席、練習かどうか」。主眼はそこにあった。
だからこそ、念願の“1本”も、打った瞬間こそ「舞い上がってしまった」と、22歳の若者らしく二塁ベース上で大きくガッツポーズを見せ、喜びを爆発させたが、試合後には、早くも「ただの通過点」と気持ちを切り替えた。目標は、あくまで「レギュラー」。もっと言えば、同じ右の強打者という点からも、
楽天にFA移籍した
浅村栄斗、それ以上の存在になることだ。
「直近で1本を打つことだけが目標ではありません。『自分は、未来はこうなる』というのは、数字的にももう決めてあります。この(初安打)の1本は、そこに至るまでの通過点。これからも、その実現のために、今自分がやるべきことを貫くことだけを考えていきます」
プレーからも、ギラギラ感が漂う熱血タイプだ。
「みんなが、『1本出たら変わる』と言っていたので、僕自身、次の打席がどうなるかが楽しみです」
次世代のライオンズを背負って立つ逸材の今後に、乞うご期待!
文=上岡真里江 写真=川口洋邦