読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.マリナーズに移籍した菊池雄星選手が、6試合目でようやく初勝利を手にしました。なぜ時間がかかったのでしょうか。また、菊池選手がこれからマリナーズで白星を重ねていくには、どのようなことが必要でしょうか。(神奈川県・44歳)
A.球団方針で球数制限があるので、その中でどうするか

マリナーズの菊池雄星(写真=Getty Images)
まず、6試合目での初勝利について、「時間がかかった」と思うのではないでしょうか。勝ち投手の権利を得ながら、リリーフが打たれて白星を逃した惜しい試合もいくつかありましたが、球団の方針もあって、ルーキーの菊池選手には球数の制限がされているので、仕方がない面があります。
思い出してほしいのが東京で行われたMLBオープニングシリーズの第2戦での初先発です。4回2/3での交代。これは球団が菊池選手を大切に考えている証拠(複数年の高額契約という部分ももちろんあります)。目先の白星よりも、シーズンを通じて健康な体で先発ローテーション(しかも中4日です)を守ることを第一に考えているからです。
特にメジャーのマウンド、ボール、そして相手に慣れていない序盤は厳しいくらいの制限がある中で投げていくことになると思います。ローテを守る中で、1年目に関してはショートイニングで終える試合もあることを球団側も明かしていますね。少し考え方が違うので、日本のファンの方は戸惑うかもしれません。
ただ、菊池選手も初勝利を挙げるまでの間にあらためて気づいたはずです。球数を多く放ってしまうと、イニングが稼げないことを。序盤はまだ固いマウンドに慣れておらず、手が遅れて出ることでボールが高めに行くシーンが散見されました。この辺りは修正されつつありますので、あとはいかにストライクを先行し、1ボール2ストライクで勝負していく形を増やせるかでしょう。
1球でポーンと打ってくれることも多いですし、日本のように前のバッターが初球に手を出したから次は見ていくという環境ではありません。さすがに1球、1球で終われば3人目は1球様子を見ますが、4球イニングも意外と多いですから、1試合で1度は欲しいですよね。
菊池選手が良いのは立ち上がりに少し問題はあるものの、4~6回はしり上がりに調子を上げて交代するところ。序盤に多少打たれてもロングマンにつながないのは、球団もそれを理解し始めたからで、評価の高さがうかがえます。球数のリミットが外れるまでは我慢のときですが、マリナーズ打線がいいので、本人が球数を抑えて(個人的にはシンカー系の1球で打たせるボールが欲しい)、イニングを稼げれば勝てると思いますよ。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。