ノーヒットノーランに迫る素晴らしいピッチングを見せた多田野
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわってその日に何があったのか紹介していく。今回は2009年7月10日だ。
存在価値を取り戻すために、無心で右腕を振った。惜しくも記録達成はならなかったが、
日本ハム・
多田野数人の表情はすがすがしかった。
「それまで四球も出していたので、安打も四球も一緒。それよりゼロで抑えられたことが何よりうれしい」
この日の
ロッテ戦。本拠地・札幌ドームを異様なムードに包み込んだ。9回二死まで4四球も無安打。主砲の
大松尚逸を抑えればノーヒットノーランの快挙達成だった。カウント0−1からの2球目、フォークを右前へライナーで運ばれた。夢破れたが、続く
サブローを中飛に打ち取り、会心の笑顔で勝利の輪に加わった。
2年目でプロ初完投、初完封勝利。多田野自身にとっては十分に価値ある1日となった。開幕はローテ入りしたが、2勝2敗、防御率7点台の大不振から5月に二軍へ降格。前年7勝を挙げた伸びしろを見込んでいた周囲の期待を大きく裏切った。降板後にロッカールームで荒れることもあった。そんな行動面も含め、チームメートからの信頼は一時期より揺らいでいた。
2カ月間の二軍での再調整。心身ともに磨き上げ、舞い戻った。圧倒するような剛球はないが、バックを乗せるように淡々とテンポ良く投げ切った。味方の堅実な守備にも支えられ、あと一歩までノーヒットノーランに迫る好投。自身の生きる道を再発見した、119球の熱投だった。
写真=BBM