
制球力を測る新たな指標「コマンド+」。1位は田中将大だが、上位の顔ぶれを見るとなるほどと言える面々。さらにデータが蓄積されていけば、信用できる指標になりそうだ
MLBの新たな指標にスタッツインクの「コマンド+」がある。制球力を測るもので、リーグ平均を100とした上で、現時点で先発投手の1位は
ヤンキースの田中将大の133だ(8月上旬現在)。
2位はカブスのカイル・ヘンドリックスとレッズのタイラー・マーリーで124。4位はタイガースのジョーダン・ジマーマンの120。5位はブリュワーズのザック・デイビーズで117。日本人投手ではドジャースの
前田健太が107で46番目、マリナーズの
菊池雄星が98で116番目、カブスの
ダルビッシュ有が86で155番目となっている。
どのようにはじき出すかというと、1球1球投手が狙うコースを、カウントや状況など、過去のデータをもとに見極め、判断し、そこにどれだけ正確に投げられたかで、数値を取っていく。0-2、1-2など打者を追い込んでいれば、当然投手はボール球を振らせてきた。この場合、きちんとゾーンの外にコマンドできればいい数値になり、逆にど真ん中に投げてしまったら悪い数値になる。田中の試合をよく見る方ならご存じのように、必ずしもストライクゾーンを狙わない。約60パーセントは、ゾーンから外れたボール球でそれにバットを出させる投球術、制球力がズバ抜けている。
コマンドは「意のままにできる」「自由に操る」といった意味だが、田中はゾーンへのボールの出し入れが誰よりも巧みなのだ。ちなみにストライクゾーンにどれだけ投げ込んでいるかの指標「ゾーン%」では、上位の顔ぶれはまったく変わってくる。
ファングラフスによると先発投手の1位は菊池雄星の47.7パーセント、2位はホワイトソックスのルーカス・ジオリトの47.4パーセント、3位はホワイトソックスのレイナルド・ロペスの46.8パーセント、4位はロッキーズのヘルマン・マルケスの46.7パーセント、5位はマリナーズのマイク・リークの46.5パーセントである。
菊池のほうが田中(ゾーン率40.6パーセント)よりストライクゾーンに投げ込んでいるが、どちらの制球力が上かといえば、周知のとおり断然田中なのである。先日カブスの試合の地元テレビ中継で、ダルビッシュのコマンド+の数値を月ごとに紹介していた。3、4月=83.3、5月=84.5、6月が89.9、7月=96.6(現地時間7月17日のレッズ戦まで)である。
MLBでも最も制球力のなかった投手が、平均レベルに肉薄してきた。この劇的な変化を裏付けるように、ダルビッシュ本人も最近の試合後こう語った。
「コントロールに関してはまったく不安がない。マウンド上の様子を見れば分かると思うけど、今はスポットをミスするだけで、イライラしてしまう。前はストライクを投げられればハッピー。レベルが全然違う感じがします」
これまで投手の制球力を正確に測る指標はなかった。単純に、四球の多い投手はコントロールが悪く、少ないとコントロールが良いになっていて、それはそれで間違ってはいないのだが、すべてを説明しきれてもいなかった。
前述のゾーン率も明らかに違う。「コマンド+」はまだ3年目だが、上位の顔ぶれを見れば“なるほど”と思うし、データの蓄積が進めば、さらに信頼し得るデータになっていくと期待できるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images