
初回、マウンドに上がると欠かさず投球プレートに『信』の文字を指で書く
初回の投球前。気持ちを落ち着かせるように指を走らせ、投球プレートの上にある文字を記す。今季から行う1つの確認事項だ。
「今年の開幕前の全体ミーティングの一言目に(
西村徳文)監督が『信は力なり』と言ったんです。シーズン最初の言葉だからこそ、一番大事なことだと思ったんですよね。その言葉を忘れないようにしよう、と。だから、『信』と書いているんです」
金子千尋(現・弌大=
日本ハム)、
西勇輝(
阪神)が昨オフに移籍し、一気に若がえった投手陣。その中で投手リーダーを託され、今季は開幕投手も指名された。プロ3年目ながらチームの柱として期待される右腕。だからこそ、初回のマウンドで忘れてはならぬ思いを確認していた。
山岡泰輔が信じることは、次のことだ。
「野手が必ず援護してくれる、後ろで守ってくれる。1人で戦わないようにしよう」
新人年の2017年は8勝11敗、昨季は7勝12敗と負け越しを悔いる右腕だが、援護なく敗れる試合も少なくなかった。それだけに「正直『なんで打ってくれないんだろう』と思ったこともあった」という。だた、こうも言う。
「そう思うこと自体、チームを信じれていなかったんです。去年まで、どこか1人で野球をやっているところがあったんです。野手を信じ切れていない自分がいたんですよね」
今季は開幕からチーム唯一、先発ローテを守り続けて自身初の2ケタ勝利をマーク。数字の目標に挙げた“貯金”も8つ作れているが、信じ続けた“チームとしての結果”だときっぱりという。
「かなり打線に助けてもらって点を取ってもらっているので、勝ち星が付いてきているだけ。負けも消してもらっているし、勝ちも付けてくれている。それが今の成績だと思っています」
9月21日の
ロッテ戦(京セラドーム)で8回途中1失点の好投で今季12勝目(4敗)を挙げ、自身の勝率は.750と、リーグトップを維持。タイトル獲得にも期待がかかるが『勝率第一位』の獲得条件は“シーズン13勝以上”だ。残る登板は試合数から考えても、あと1回。今季のラスト登板を白星で飾り、自身初タイトルとなるか――。“信”の文字を胸に、最後まで腕を振り続ける。
文=鶴田成秀