野手の中で唯一無二の存在

すべての面においてチームを引っ張った坂本
主将が野手陣の先頭に立ち続けた。年間を通して打率、本塁打、打点の主要3部門でリーグ上位に位置。しかも今年は「ここぞ」という場面での活躍が目立った。まさにキャプテンという名にふさわしい働きを果たした
坂本勇人が
巨人優勝の野手MVPだ。
なかでも、原監督が坂本勇を褒め称えた試合があった。
「もうなんていうか。あれぐらいプレッシャーのかかる場面でも自分のスイングができるというね。ほかの選手もあの姿というものに対して、勉強になってというかね。素晴らしかったと思いますね」
と賛辞を並べたのは8月28日の
広島戦(東京ドーム)の試合後のことだった。
2点を追う5回。1点を返し、なおも一死一塁から左翼後方の看板を直撃する逆転2ランを放った。自身9試合ぶり。圧巻の140メートル弾に、球場は一瞬の静寂に包まれた。「(看板弾は)二度とないかなと思ったんですけど、うれしい。今年一番完璧」と2年連続の特大アーチを喜んだ。
チームは24日に今季初めてマジックを点灯させたが、その後は2連敗。流れを手放すような戦いぶりに、ベンチでは盛り塩を用意したときもあった。マジック初体験の選手も多く、独特の緊張感が漂っていた。追いすがる広島に、この日も先制を許した。「また、今日も――」。誰もが思いかけた矢先、主将の意地の一振りが出た。
今季から、東京ドームでの試合後は、サロン内の食堂で食事を摂ってから帰るようになった。独り身がゆえに、外食中心。自然とお酒に手を伸ばす機会も増えてしまう。ところが食事を摂ってから球場を出ることで、自宅に直帰ができる。球団による専門の栄養士の指示のもと、バランスのとれた品が並ぶ。
そのかいもあって、下半身のコンディション不良で試合途中に交代したことはあったが、優勝まで1試合を除いて先発出場を果たしている。試合にさえ出られれば存在感は別格だ。打つだけでなく、投手陣を遊撃の位置から鼓舞。ピンチになれば一番にマウンドに向かい、
桜井俊貴や
中川皓太、
田口麗斗ら若手投手陣にも積極的に声をかけて背中を押していた。
攻守とも、ど真ん中で戦い抜いたシーズン。その姿は、野手の中で唯一無二の存在であった。
写真=BBM